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平成30年度 「適応回路シフト」研究室滞在支援制度報告

派遣者:浜田 駿  申請者:大塚 稔久(公募班)
    (山梨大学大学院 総合研究部医学域 生化学講座第1教室)
滞在先:石井 信先生
    (京都大学 工学部 電気電子工学科 論理生命学分野)

 
 シナプスは神経活動に応じて構造や伝達効率などが変化する可塑性が知られています。知られている可塑的な変化のほとんどはポストシナプスでの受容体の数やスパインのサイズなどの変化であり、プレシナプスでの変化についてはほとんど知られていません。そこで私たちは神経活動が引き起こすプレシナプスへの影響を調べることにしました。
 われわれの研究室ではCAST KOマウスと特定の行動異常との関連性を示唆する予備データがあったのですが、CASTは脳全体に発現するため、CASTが重要となる脳領域は不明なままでした。そのための神経活動に応じたプレシナプスの変化を調べるモデルとして、この行動異常とCASTとの関係に着目しました。そこで、まずは行動の際に活性化する脳領域を特定し、その中でもとくに活性化した神経細胞と活性しなかった神経細胞を比較することにしました。そこで、特定の行動をしたマウスとしなかったマウスに分け、in situハイブリダイゼーション法によりc-FosとCASTの mRNAの発現領域を探索しました。その結果室傍視床核 (PVT) という領域がもともとCASTの発現が強く、行動群においてc-Fosの発現が増加していたため、CASTが制御する領域の候補と考えました。
 そこで、コントロールマウスと行動マウスの細胞ごとのc-FosとCASTのシグナルを数値化し、比較することにしました。単純に2つの遺伝子の発現量を2次元プロットしただけでは今一つ違いが見いだせず、統計処理に詳しいかたにご助言を得たほうがいいのではないかと考えていたところ、研究室滞在支援制度により、京都大学工学部電気電子工学科論理生命学分野の石井信先生のもとへ派遣させていただく機会を得ることが出来ました。8月の終わりだったため、盆地の京都はかなり暑いだろうと思い、思いっきり薄着で訪問したところ、訪れた研究室はPCデスクが立ち並ぶ冷房の効いた部屋だったため、真夏の京都とは思えぬ肌寒さを感じながらの三日間となりました。その中で統計処理について、石井先生の他、大羽先生らとディスカッションをしながら進めた結果、数値データを対数化しプロットし、さらに補正等の変換をすることにしました。そうすることで、初めはばらついていたデータの中から、c-FosとCASTの量についての正の相関を示す集団と、そこから外れた集団に分けることができました。今後はこの解析を基にPVTで発現しているCASTと行動制御との関連性をより詳細に調べていきたいと思います。
 最後に、ご多忙のところ訪問を受け入れてくださった石井先生の他、解析方法をレクチャーしてくださった大羽先生、色々相談に乗ってくださった浦久保先生、中江先生、Henrik先生、そして多大な支援をいただきました「適応回路シフト」領域代表の小林先生ならびに研究支援委員会の礒村先生やスタッフの方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

投稿日:2019年09月03日