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平成28年度 「適応回路シフト」研究室滞在支援制度報告

派遣者(申請者):高橋 真有(公募班)
    (東京医科歯科大学)
滞在先:伊佐 正先生(計画班)
    (京都大学 生理学研究所)

 
 申請者らは、サッケード眼球運動生成・停止機構の詳細な神経回路を、ネコ・サルで、電気生理学的方法と解剖学的方法を用いて明らかにしてきた。これまでの研究により、サッケード座標系が従来の水平・垂直でなく、三半規管座標系であることを強く示唆する結果を得た。さらに両側上丘間に交連性抑制に加えて強い興奮性交連結合が存在することを発見した。
そこでこの上丘頭側部に存在する上丘間の交連性抑制と交連性興奮の機能を明らかにするため、この経路を選択的に遮断することが望まれたが、従来の薬物的方法では,経路選択的な機能遮断や可逆的機能遮断が不可能であった。そこで、本研究では、伊佐正教授(京都大学)らが、小林憲太先生(生理研)らと共同で開発した2種類のウィルスベクターを用いた2重感染法とDREADD法を組み合わせた経路選択的シナプス遮断法を用いて、経路選択的に上丘交連結合の障害を起こし眼球運動のセントラルドグマといわれる「Listingの法則」の神経機構を解明すると共に、サッケード随意眼球運動系が、前庭動眼反射系と同じ、三半規管座標系を用いていることを明らかにすることを目的とした。
 申請者の所属する東京医科歯科大学では、本実験を行う環境が整備されていないため、伊佐先生の研究室に滞在し、実験を遂行していくこととなった。

 
平成28年度前期
 サルに眼球運動を訓練し、上丘にウィルスベクターを注入して、選択的回路の機能をブロックして起こる眼球運動の変化を解析した。
 まず、マカクサルにイソフルレン麻酔下で無菌的手術を行い、headpostを頭骸骨に装着した後、眼球運動(固視と、12方向のvisually guided saccade)の訓練を行い、コントロールの眼球運動を、自作の赤外線ビデオ記録装置(サンプリング周波数 500HZ)を用いて計測し、Matlabを用いて解析プログラムを作成し、コントロールの眼球運動のパラメータの解析を行った。その後、MRI撮影で記録部位の座標を決めた後、麻酔下で無菌的にサル頭蓋骨に記録・刺激用のchamberを設置して、再度MRIを行った。
 サッケード中の上丘の単一神経活動の記録と、微小電流刺激を用いてサッケードを誘発することにより、上丘の頭側部の垂直性サッケードがコードされている部位を、電気生理学的なマッピングを系統的に行って同定し、正確にウィルスベクターの注入部位を決めた。その後、左上丘に高性能逆行性レンチウィルスベクター、右上丘に新たに開発された順行性のAAVベクターを注入した。その後2重感染が完成するのを待ちながら、サッケードの訓練などを再開した。その間、共同研究者の伊佐教授が生理学研究所から京都大学へ異動となったので、サルを京都大学へ移管し、以後の実験は京都大学で行うこととなった。

 
平成28年度後期
 京都大学動物実験施設にて実験を行うこととなり、生理研から京大に引越しを行い、新たにサル慢性実験の電気生理実験用のセットを構築しなければならないこととなった。従来使用していた伊佐研のTEMPOシステムの代わりに、NIHで使用しているREXシステムを用いて、プログラムを作成し直して新たなセットを構築した。
 再度サルにサッケードの訓練を行い、十分なコントロール実験の後、2017年の月より2週に1度のペースでCNOを投与し、選択的経路遮断前後の眼球運動を記録し、選択的に遮断された経路の機能的役割の解析を進めている。遮断実験が終了した際には、さらに、神経生理学的実験とラベルされた細胞に関する組織学的検索を行い、上丘間交連結合の機能を明らかにする予定である。

 
 伊佐研究室の充実した研究環境のおかげで、マカクサルで、ウィルスベクターの2重感染による特異的神経回路遮断法を用いた、眼球運動系の機能の解析を進めることができています。今後も継続して共同研究を行い、更に成果をだしたいと考えております。
 最後に、いつもお世話になっている伊佐教授、伊佐研の皆様、そして、東京から京都に出かけ研究室に滞在して実験をおこなうにあたり多大なご支援くださいました「適応回路シフト」領域代表の小林和人教授、及び研究支援委員会の先生方に厚く感謝申し上げます。

投稿日:2017年09月04日