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    -第40回日本神経科学大会シンポジウム(千葉県・幕張メッセ)-
    -国際大脳基底核機能ワークショップ2017(東京都・玉川大学)-

【開催報告】大脳基底核の機能を考える
-第40回日本神経科学大会シンポジウム(千葉県・幕張メッセ)-
-国際大脳基底核機能ワークショップ2017(東京都・玉川大学)-

2017年7月下旬、第40回日本神経科学大会(千葉県・幕張メッセ)において、ドーパミンのシグナリングと回路メカニズムに関するシンポジウムと、大脳基底核と小脳の機能的カップリングに関するシンポジウムが開催されました。その後、二つのシンポジウムの講演者や参加者が玉川大学(東京都)に集結し、「適応回路シフト」領域の共催企画として、大脳基底核の機能の理解を一層深めるためのワークショップを開催いたしました。ここでは、これら一連の活発な学術交流の様子を、若手の会メンバー3名にレポートしてもらいます。

 
シンポジウム「Frontiers in Dopamine Signaling and Circuit Mechanisms」
(7月20日 オーガナイザー:小林和人・貝渕弘三)
このシンポジウムでは、中脳ドーパミン細胞と線条体に関して、分子・細胞レベルから個体レベルでのメカニズムまで幅広く発表が行われました。L.E. Trudeau先生(Univ. Montreal)は、腹側被蓋野の細胞から放出されるドーパミンとグルタミン酸の相互作用がシナプス可塑性において果たす役割について発表されました。E. Borrelli先生(Univ. California Irvine)は、線条体の中型有棘細胞とコリン作動性細胞のそれぞれに発現するD2受容体の異なる機能について報告し、このメカニズムの破綻と精神疾患の関係について議論しました。永井拓先生(名古屋大学)は、側坐核のD1受容体陽性細胞に注目し、ドーパミンによるプロテインキナーゼAおよびRap1シグナルを活性化と報酬関連行動の因果関係を明快に示しました。小林和人先生(福島県立医科大学)は、独自に開発した経路選択的破壊法により、刺激反応学習中に線条体内の異なる経路が異なる役割を果たしている事を報告しました。また木村實先生(玉川大学)は、線条体の2種類の出力細胞の神経活動を高い精度で分離・記録することで、それぞれの神経が柔軟な行動選択において果たす役割について報告しました。疋田貴俊先生(大阪大学)は、ドーパミンのD2受容体に異なるサブタイプが存在することに注目し、D2L受容体が行動の柔軟性に重要な役割を果たすことを報告しました。当日は、国内外から多くの方々にご参加頂き活発な議論が行われました。(報告:瀬戸川将)

 
シンポジウム「Basal Ganglia Meet Cerebellum」
(7月22日 オーガナイザー:礒村宜和・南部篤)
このシンポジウムでは、これまで別々に研究されてきた大脳基底核、小脳の機能的メカニズムを統合していく研究が紹介されました。まず、南部篤先生(生理学研究所)による大脳基底核、小脳研究の歴史の振り返りのあと、田中真樹先生(北海道大学)から、タイミングを図って運動するときには、大脳基底核と小脳は異なる時間スケールのタイミングをコードしているという、最新の研究結果が報告されました。つぎに、知見聡美先生(生理学研究所)は、運動の出力に関わる視床-大脳皮質投射ニューロンの神経活動が、大脳基底核、小脳それぞれからどのように制御を受けているのかを検証した研究を紹介されました。小島奉子先生(Univ. Washington)は、小脳依存性学習とされてきたサッケード速度の適応過程で、大脳基底核から上丘を介した小脳への情報伝達が重要であることを報告されました。最後に、大脳基底核と小脳の間に双方向性の様々な神経回路が明らかになった、K. Khodakhah先生(Albert Einstein College of Medicine)の最新の研究成果が発表されました。異なるシステムとして扱われてきた大脳基底核、小脳の機能的メカニズムを統合していく非常に挑戦的な内容のこのシンポジウムには、立ち見が出るほどの多くの聴衆が集まり、質疑応答でも活発な議論が行われました。(報告:吉田純一)

 
国際大脳基底核機能ワークショップ2017
(7月23日 オーガナイザー:礒村宜和・小林和人・南部篤・木村實)
このワークショップは、先のシンポジウムの講演者や参加者が玉川大学に集結して開催されました。最初のセッションでは、まず加藤成樹先生(福島県立医科大学)が講演され、視床のCL・PF核から線条体へのそれぞれの経路が運動時において異なる機能を持っていることを示されました。E. Borrelli先生は、細胞種特異的にD2受容体を欠損させたマウスにおける行動や遺伝子発現の変化を紹介されました。次のセッションでは、野々村聡先生(玉川大学)が、線条体のD1・D2ニューロンはそれぞれ正・負の報酬情報を持ち、行動選択においてStay・Switchを促進していることを示されました。L.E. Trudeau先生は、黒質緻密部のドーパミンニューロンの形態が様々な遺伝子の欠損や過剰発現によって変化することを紹介されました。その次のセッションでは、知見聡美先生が、行動中のサルにおいて淡蒼球・小脳から入力を受ける視床の細胞の活動の違いを紹介されました。M. Filipovic先生(Bernstein Center Freiburg)は、大脳皮質-線条体-視床の回路をシミュレーションした研究を紹介されました。K. Khodakhah先生は、小脳から腹側被蓋野への投射経路が快情動を引き起こしている可能性を示唆されました。最後のセッションでは、小島奉子先生が、黒質網様部から上丘に至る眼球運動に関わる回路のそれぞれの領域について、サッケード適応に果たしている機能を紹介されました。田中真樹先生は、小脳と大脳基底核が表現している時間情報の違いについて紹介されました。いずれの講演もたくさんの質疑応答が交わされ、充実した議論が行われました。(報告:川端政則)

 


 

 
共催:玉川大学脳科学研究所、新学術領域研究「適応回路シフト」・「オシロロジー」、大脳基底核機能研究会

 

(編集:小林・礒村)

投稿日:2017年09月04日