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平成28年度 「適応回路シフト」研究室滞在支援制度報告

派遣者:疋島 啓吾  申請者:尾上 浩隆(計画班)
    (沖縄科学技術大学院大学 実験動物セクション)
滞在先:礒村 宜和先生(計画班)
    (玉川大学 脳科学研究所 礒村研究室)

 MRIを用いた脳機能イメージング(fMRI)は、神経活動に伴う酸素消費の増加と付随して起こる血流増加をBlood oxygenation level-dependent (BOLD) 信号として捉えることで非侵襲的に全脳スケールの脳活動を計測する。fMRIにより様々な運動や認知活動と対応する脳領域の関係が明らかにされているが、神経活動とBOLD信号の関係は脳領域で異なるなど不明な点が多い。
 ラットなどの実験動物を対象としたfMRIは、ヒトでは適用が難しい電極刺入によるユニットや局所フィールド電位の計測、またオプトジェネティクス技術を用いた神経活動の制御を併用することが可能である。これらの同時計測によって、神経活動とBOLDの因果関係を明らかにしBOLDの生物学的なメカニズムに迫ることができる。しかし、実験動物のMRIの多くは麻酔下で行われてり、麻酔下のfMRIでは覚醒下本来の脳活動は評価できない。さらに、MRI環境において、動物に行動課題を実施させ課題中の脳活動を計測することは容易ではない。
 本領域計画班の理化学研究所 尾上浩隆先生は、行動適応を担う神経回路の機能シフトを理解するために、神経回路活動を計測する非侵襲的イメージング技術の開発を進めている。尾上班では、げっ歯類の行動獲得や実行のプロセスで起こる脳活動を電気生理とともに観測するため、げっ歯類の覚醒下MRIや細胞外電位との同時計測、さらに行動課題中のMRIの確立を計画している。私は尾上先生の下、沖縄科学技術大学院大学の11.7テスラ動物用MRIを用いたげっ歯類のイメージングを担当している。
 そこで私はラット頭部固定下の電気生理実験やオペラント条件付け技術を習得するため、研究室滞在支援制度に申請し、玉川大学脳科学研究所 礒村研究室に平成28年6月21日から28日までの約一週間滞在させて頂いた。期間中、礒村研究室の相馬祥吾先生に、馴化の為のハンドリング、頭部拘束のための固定具の取り付け、オペラント条件付け、電極の挿入、電気生理学的記録手法やその解釈を懇切に教えて頂いた。また期間中、玉川大学では脳科学トレーニングコースが開催されていた。こちらは例年大変人気があるトレーニングコースであり、一部同席させて頂き大変勉強になった。
 礒村研究室の充実した研究環境でトップレベルの技術に触れ、極めて有意義な一週間を過ごすことができた。この貴重な経験により今後の実験にむけての自信に繋がった。今後、早急にラット行動課題中の同時計測MRIを実現させ、研究を展開するとともに、新学術の研究者が本システムを利用できるように整備したい。
 最後に、滞在を快く引き受けてくださり、ご指導に時間を割いて頂いた礒村先生、相馬先生をはじめ礒村研究室の皆様、そして申請の際にご支援頂いた尾上先生、本支援制度に携わっている先生方に心より感謝申し上げたい。

 


礒村研の皆さんとの楽しいひと時(右から3番目、疋島)

投稿日:2016年08月24日