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平成28年度 「適応回路シフト」研究室滞在支援制度報告

派遣者: 西村 方孝  申請者:宋 文杰(公募班)
   (熊本大学大学院 生命科学研究部 知覚生理学分野)
滞在先: 礒村 宜和先生(計画班)
   (玉川大学 脳科学研究所 礒村研究室)

我々動物が、神経やその集合体である脳を使って“感覚”を生み出す仕組みの研究には長い歴史があり、各感覚を担う神経細胞の受容野に代表されるように、個々の神経細胞における感覚情報の符号化とその様式は多くが明らかにされてきました。しかし依然として、それら符号化された情報から最終的に“感覚”が生み出される仕組みには多くの不明な点が残されています。ヒトでは実験が困難な侵襲的な手法を用い、個々の神経細胞と“感覚”の関係を解明していくためには、その動物が今どのような“感覚”を有しているのかを明確にする必要があります。しかし一般的に、実験動物はヒトのように言葉でその“感覚”を実験者に伝えることができません。そのため、実験動物を用いてそれらの関係を解明していくためには、動物が自らその“感覚”を行動で示すように訓練させることが必要不可欠です。そこで知覚生理学分野では、モルモットでオペラント条件付けを行い、モルモットの“感覚”を高い精度で読み出すための方法を確立させました。その方法を用い、覚醒状態のモルモットから“感覚”と相関する神経細胞の活動を記録または操作を行ない、それらの関係の解明を目指していきたいのですが、長期的に脳から神経細胞の活動を記録する経験やノウハウが不足していました。
以上の背景を踏まえ、2016年5月18日から21日の間、覚醒動物でのユニット記録の経験が豊富な礒村研究室に滞在させていただき、実際の手術や計測に加えて、テトロードを作りプリアンプと電気的にコンタクトさせる方法等を細かく教えていただきました。知覚生理学分野のモルモットの標本と礒村研究室のラットの標本では、自由行動動物と頭部固定動物という違いがあるため、細部のアレンジは必要になるものの、暴露部の保護に使用する樹脂、脱着するコネクタ部分を長期間保護する方法等、出版されている論文を読むだけではなかなか得ることが難しい知識や情報を得ることができ、最終目標である自由行動動物からの記録を直ちに実現できるぐらいの具体的なイメージを形成することができました。知覚生理学分野の方では、先の地震による被害からの復旧作業(実験装置の復元)がまだ続いているため、礒村研究室で学ばせていただいたことを活かした研究成果の報告はもう少し先になる見込みですが、今回経験させていただいた諸々のことは、今後、知覚生理学分野の研究を発展させていく上での重要な礎になると確信しています。
最後になりましたが、礒村先生をはじめ、礒村研究室の皆様及び新学術領域「適応回路シフト」の関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。

磯村研究室での一コマ
礒村研究室での一コマ
(テトロードの作成と実際の骨標本を用いてのシミュレーション)
左:西村。右:学振PDの相馬先生。

投稿日:2016年05月30日