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平成27年度 「適応回路シフト」研究室滞在支援制度報告

派遣者:小野里 尊  申請者:高橋 真有(公募班)
    (東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 システム神経生理学教室)
滞在先:伊佐 正先生(計画班)
    (生理学研究所 発達生理学研究系 認知行動発達機構研究部門)

随意性の眼球運動は、大脳における眼球運動中枢(上位中枢)からの運動指令が、脳幹の眼球運動中枢(下位中枢)を介して動眼筋を収縮させると考えられている。この大脳における中枢は前頭眼野(Area 8)として知られ、また脳幹における下位中枢に関しては、水平性眼球運動の中枢であるPPRFがA.Komatsuzakiらにより明らかにされている。さらに、垂直性眼球運動の下位中枢が中脳のriMLFであることがButtner-Enneverにより同定されている。

これらの中枢神経回路によりなされる急速眼球運動(サッケード)は、最も素早く、また精密におこる随意性運動である。多様な生物において、外界からの情報認知は適切な眼球運動により取得される視覚情報が大きな割合を占め、それらは高等な動物種であるほど顕著であると言える。特にサルやヒトでは眼球運動のみでの注視が可能であることが知られ、より下等動物における体幹運動を伴う注視とは明らかに異なる。以上のことから眼球運動が非常に高等且つ重要な運動制御機能であることが予測されるが、中枢神経系における制御回路は完全に解明されてはいない。特に、下位中枢と呼ばれる脳幹内の眼球運動制御回路機構の解析は、臨床的知見に基づき明らかにされてきたが、未だに個々の解剖学的構造間における相互関係は不明確な部分が多い。私の所属する研究室ではこれまで、急速眼球運動制御回路の詳細を、ネコ・サルを用いて電気生理学的および解剖学的解析を行ってきた。

本支援に採択を頂いたことで、運動制御研究のプロフェッショナルであり、本研究の共同研究者でもある生理学研究所 発達生理学研究系 認知行動発達機構研究部門 伊佐正教授のご指導のもと、大型動物(ニホンザル)におけるウイルスベクター注入実験や電気生理学的実験、またそれらのデータ解析の見学の機会を得た。大型動物の取り扱い方や手術法を学ぶ機会は非常に貴重な体験であった。また、東京医科歯科大学 システム神経生理学教室の高橋先生から本研究に関する直接的なご指導を多く賜り、生理学的な運動制御研究の複雑さやその重要性に関し、多くのことを学ぶことが出来た。大学院生の私にとっては、このような高次元の研究に触れることはとても良い刺激となった。とくに研究室内完結型の研究に比較し共同研究がパワフル且つスピーディに進むこと、そしてそれに伴う責任の重大性の一端に触れることが出来たことは、本支援における最大の収穫である。

最後に、本研究に際しご指導ご協力頂きました、伊佐先生並びに伊佐研の皆様、高橋先生および篠田先生に感謝申し上げると共に、貴重な機会を与えてくださった適応回路シフト領域の皆様に厚く御礼申し上げます。

 

投稿日:2016年03月02日