世界と福島の地域保健を繋ぐ架け橋が着実に発展
ハーバード公衆衛生大学院「日本における地域保健の強化」コースに本学教員らが参加
2025年10月27日〜31日、ハーバードT.H.Chan公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)による集中的な教育コース「日本における地域保健の強化(Strengthening Community Health in Japan)」が開催されました。
本コースは、ハーバードT.H.Chan公衆衛生大学院 教授の後藤あや先生が中心となり企画・運営され、本学の看護学部や医学部教員を含む日本の医療専門職ら20名を対象に10月27日から5日間ボストン近郊で開催されました。
国際的視点からの地域保健戦略の構築
本コースの目的は、国際的な視点から、日本で成功したユニバーサル・ヘルス・ケアと参加者自身の地域での実践を見つめ直し、保健医療システムやサービスの改善戦略を議論することにあります。
参加者は、ヘルスシステム思考、ヘルスリテラシー、コミュニティ・エンゲージメント、そして社会の健康決定要因(SDOH)など、地域保健を強化するために不可欠な最先端の知見を習得しました。また、現地看護学部の施設や教育の見学も行いました。グループワークでは、東日本大震災後の福島の経験を重要なケーススタディとして取り上げ、災害やパンデミックから得られた教訓や、公衆衛生看護師をはじめとする看護専門職の将来的な役割についても深い議論が交わされました。受講者は自身の地域が抱える具体的な課題解決に向けたプロジェクト戦略を立案し、最終日にはその成果を発表しました。
受講者の声:学びを地域へ活かす決意
本学関係者を含む受講者からは、地域保健への新たなアプローチを導入する意欲に満ちた声が寄せられています。今回は、参加人数が特に多かった看護学部からの参加者を取り上げています。(以下、一部抜粋)
看護学部 黒田 るみ教授:「地域住民の健康や日常生活の悩みを看護師がサポートできる相談場所の創設」プロジェクトに参加。『地域での保健活動と一人の対象者への看護を考える視点との共通性に気づき,国際的な視点を学ぶ重要性を痛感しました。医療資源へのアクセスが困難な地域住民を、看護職がどう支え、地域全体でヘルスリテラシーを高めていくか、具体的な戦略を練る大変さと面白さを体験しました』
看護学部 佐藤 菜保子教授:日野原フェロー、武見フェロー、グアム大学からの参加者と共に「勤労世代のがん患者の就労継続」のプロジェクトに参加。『Project Design Matrixを用いた検討を通し、当事者、家族、医療機関、企業というステークホルダー間の連携強化の重要性を、ヘルスリテラシーや社会関係資本の観点から深く理解し、教育プログラム構築の必要性を学びました』
看護学部 山口 咲奈枝教授:「子育てを楽しめない母親たち」の課題に取り組んだグループのメンバー。『出産後の自殺が母親の死亡原因のトップであるという深刻な現状を、心理的・社会的要因から分析し、母親のサポート受容力を高める地域支援モデルの有効性について議論し、大きな学びを得ました』
看護学部 石井 佳世子講師:山口教授とともに「子育てを楽しめない母親たち」の課題に取り組んだグループのメンバー。『出産後の自殺が母親の死亡原因のトップであるという深刻な現状を、心理的・社会的要因から分析し、母親のサポート受容力を高める地域支援モデルの有効性について議論し、大きな学びを得ました』
看護学部 杉本 幸子講師:「地域住民の健康や日常生活の悩みを看護師がサポートできる相談場所の創設」のプロジェクトのメンバー。『日本の世帯構成の変化や医療提供システムの課題を特定し、地域住民の健康や生活を包括的に見ることができる看護師の強みをどのように機能させるか、The Getting Health Reform Right modelなどの視点を得て、戦略的に取り組むことができました。』
今後期待されること
今回、日本の医療専門職がハーバードの先進的な知見を習得したことで、各地域での医療・看護・保健の包括的な実践がよりエビデンスに基づき、国際標準に沿ったものとなることが今後期待されます。特に、本学の医学部・看護学部の教員がこのコースでの学びを大学の教育・研究、そして地域医療への貢献にフィードバックすることで、複合災害に見舞われた福島県における地域保健の質的向上と、次世代の医療専門職の育成に大きく寄与していくことでしょう。来年度の研修は2026年11月2-6日を予定しています。各学部からの参加を期待します。
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