輸血・移植免疫学講座は、初代の大戸斉教授 (現総括副学長) によって、1987年に「輸血部」として開設され、「輸血・移植免疫部」への名称変更を経て、2010年からは「医学部 輸血・移植免疫学講座」ならびに「附属病院 輸血・移植免疫部」となり、現在に至っております。2017年10月からは、池田和彦教授が2代目の講座主任となり、新たな体制の下、運営されています。

移植とは、健常なドナーから細胞や臓器を採取して、それを患者様の体内に補充または置き換える治療法です。輸血は、赤血球や血小板、血漿など、血液の成分を補充する治療であり、最も日常的に行われている移植といえます。私たちの役割は、安全にドナーの造血細胞を採取・管理・調製し、さまざまな血液成分、組織細胞の安全、適合性を確認して、正しく患者様にお届けすることです。そして、輸血、造血幹細胞移植、臓器移植や、様々な細胞治療における安全性・効率性の向上、新たな方法の開発を目指しています。このため、全ての造血細胞の源になる造血幹細胞の生物学的特性、免疫検査・遺伝子検査などの検査法、細胞採取・保存・管理・輸注の準備、移植や治療後の免疫反応などの研究を行っています。研究成果は世界的にも診療や研究に幅広く活かされています。


教授あいさつ

池田和彦 Ikeda Kazuhiko
福島県立医科大学 医学部 輸血・移植免疫学講座 主任教授
福島県立医科大学 附属病院 輸血・移植免疫部  部長

私たちは、医師、検査技師、看護師が密接に協力しあいながら、造血細胞・免疫細胞の採取、輸血・移植関連検査、輸血製剤、細胞製剤、および再生医療製剤の管理・調整・出庫を通じて手術、移植医療、周産期医療、救急医療などの先進的・集学的な医療に携わっています。

最近、輸血療法においては、新たなエビデンスに基づいてガイドラインなどが大幅に改訂されてきました。また、臓器移植法の改定、造血幹細胞移植推進法、再生医療新法など、関連する法律が続々と整備され、再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)や自己フィブリン糊などの新たな製剤も続々と登場する中で、私たちの役割は、益々大きくなってきています。

教育では、医学教育コアカリキュラムにおいて、「輸血と移植」の項目が分類されており、それにしたがって医学部学生の系統講義、臨床実習を行っています。また、基礎と臨床の橋渡しの分野であることを活かし、基礎上級も担当しています。医師のみならず、輸血・移植・細胞治療に携わる看護師、検査技師など、様々な職種の育成が求められており、福島県立総合衛生学院の臨床検査学科の学生や、日本輸血・細胞治療学会の認定輸血看護師および認定検査技師の病院実習なども受け入れております。

これまで講座では、輸血関連移植片対宿主病 (TA-GVHD) 予防法 (製剤に対する放射線照射) の確立、C型肝炎ウイルス感染経路 (母児感染) の解明、母児間輸血現象の証明、血小板保存バッグや人工保存液の開発などの業績により輸血医療に大きく貢献し、この分野を世界的にリードしてきました。近年では、治療に用いる幹細胞の採取・輸注・機能再生における安全性、効率性、品質を向上させるべく、基礎的・臨床的な研究を数多く行っています。

研究成果を診療や検査に直結させ、安全で適正な輸血療法の推進、移植医療の進歩や新たな細胞治療の開発・発展に貢献することを目指しています。


業務内容

1. 診療・細胞採取業務

貯血式自己血輸血のための貯血

手術前に患者様自身から採血(貯血)を行い、それを手術の際に輸血します。自分の血液を用いるため、ウイルス感染などのリスクを回避できます。当院では、整形外科、産婦人科、泌尿器科、脳神経外科、血液内科と小児腫瘍内科(骨髄移植ドナー)、消化器内科、口腔外科などの診療科から依頼を受けています。

採血前に問診や検査、血圧の測定など、必要な診察を行い、適応と安全を輸血・移植免疫部の医師が確認した上で行われます。採血した血液は専用冷蔵庫にて手術日まで全血製剤として保管されます。必要に応じて白血球を除去して保管したり、自己フィブリン糊を作成したりします。貯血した血液の有効期間は採血日から35日間となります。

末梢血幹細胞採取

自己および同種末梢血幹細胞移植のための採取、細胞処理、保管・管理、出庫を当部で行っています。また、骨髄バンクの非血縁末梢血幹細胞採取施設として認定されています。小児に対しても積極的に細胞を採取しており、通算の採取数は本邦でも有数のレベルです。

現在、Spectra Optiaという成分採血装置を使用し、安全に配慮しながら採取しています。採取中に抗凝固剤に含まれるクエン酸により、低カルシウム血症に陥る可能性があるため、適宜血中イオン化カルシウム値測定を行い、必要があればグルコン酸カルシウム製剤の投与を行いながら採取します。採取時間はおおよそ3~4時間となります。採取した細胞は、臨床検査技師により、細胞数測定および凍結処理が行われ、液体窒素タンク内で保管されます。移植当日は輸血・移植免疫部(もしくは当該科)で、凍結製剤を急速解凍し患者様へ投与します。

自己フィブリン糊

自己フィブリン糊は、平成30年に保険収載された新しい方法で、患者様から採血した自己血を赤血球成分と血漿成分に分離し、血漿中の凝固因子を製剤として濃縮するものです。止血や組織修復を促進し、術後輸血や合併症を減らす方法として利用されています。市販の同種フィブリン糊に比べ、感染症や同種免疫反応のリスクが少ない製剤です。現在、当院を含む全国22施設(2021年4月末)で使用されています。

当院では整形外科、脳神経外科、内視鏡治療部、産科婦人科にて使用されています。患者様から貯血式自己血と同様の方法で採血を行い、採血した全血血液を赤血球成分と血漿成分に分離します。分離した血漿を使用し、専用機器にて自己フィブリン糊の作成を行います。作成した自己フィブリン糊は使用日まで専用冷凍庫で凍結保管されます。有効期間は自己フィブリン糊作成日から28日間、ただし、自己血の有効期間である35日以内となります。使用日当日、当部または手術部にて製剤の解凍を行い、投与されます。自己フィブリン糊作成時に分離した赤血球成分は、通常の貯血式自己血製剤と同様に使用することができます。

コンサルト

各診療科から、輸血、移植、細胞採取に関する相談を受け付けています。医師・検査技師・看護師が丁寧に応えます。必要時には多職種でのカンファランスを行います。

セカンドオピニオン

他院からも、患者さんやご家族、主治医の先生からの相談にのり、方針などについて意見をフィードバックすることができます(池田和彦教授)。内容は以下のとおりです。遺伝子検査やHLA検査、各種の抗体検査などについては、検体をお送りいただいて検査のみの受託を行うことも相談に応じますので、お気軽に御連絡下さい。治療については紹介元への逆紹介を含めた対応になります。

福島県立医科大学附属病院 患者サポートセンター: セカンドオピニオン
PDFファイル

造血幹細胞移植関連(ドナーの相談、移植適応、移植前後の診療など)

白血病などの血液疾患にかかり、移植が必要になった方、またドナー希望の方の相談や、移植の適応になるかの検査、移植前後の診療も行っています。

輸血の適応や副反応の予防・治療など

輸血関連検査

組織適合性検査(HLAおよびHLA抗体検査)

骨髄増殖性腫瘍と類縁疾患の遺伝子検査、診療(移植も含む)などについて

新生児血小板減少症(NAIT)の検査

貯血式自己血輸血のための自己血貯血

2. カンファランスなどの業務

輸血療法委員会

輸血療法院内監査委員会

造血細胞移植カンファランス [血液内科、小児腫瘍内科、造血細胞移植コーディネーター (HCTC)、病棟看護師との合同]

臓器移植関連の会議 (各診療科、委員、病院経営課との適応委員会など)

3. 検査業務

輸血関連検査(血液型検査、不規則抗体検査、交差適合試験など)

高度な輸血検査を幅広く行っています。輸血・移植免疫部専従検査技師により24時間体制で対応しています。

CD34陽性細胞数定量

CD34陽性細胞数は、造血幹細胞数を反映するため、造血幹細胞移植において必須の検査です。末梢血幹細胞、骨髄液および臍帯血中のCD34陽性細胞数について、フローサイトメーターを用いて測定しています。

HLA検査

HLAはヒトにおける組織適合抗原です。造血幹細胞移植において、移植した細胞が生着するためには、HLAが合致している必要があります。臓器移植でも、HLAによって移植成績に差が出る場合や、HLA抗体のドナー特異性が問題になる場合があります。私たちは、造血幹細胞移植および臓器移植における組織適合性検査としてLuminexを用いてHLAの遺伝子型を判定しています。また、臓器移植ネットワークの移植検査センターとして、レシピエント登録検査、提供ドナー発生時のHLA検査についても24時間体制で対応しています。

HLA抗体検査

HLA抗体検査は、臓器移植における抗体関連拒絶の回避や、造血幹細胞移植における生着不全を回避するために重要な検査です。また、血小板輸血不応の原因になりますので、抗血小板抗体検査としても行われます。ドナー様のHLA抗原に特異的に反応するHLA抗体 (Donor Specific Antibody; DSA) を患者様が保有しているかどうか、が移植の結果に影響します。当院ではLuminexを用いたHLA抗体スクリーニングおよびsingle antigen beadsによる抗体特異性の同定が可能です。

HPA抗体検査

上記HLA抗体検査と合わせ、血小板輸血不応の原因検索のための抗血小板抗体検査として行われます。

遺伝子検査

HLAのLOH(HLA不適合での造血幹細胞移植後における再発の原因)、JAK2V617FおよびCALR遺伝子変異解析(骨髄増殖性腫瘍の原因遺伝子変異)などを解析することが可能です。

4. 製剤(輸血用、移植用、細胞治療用)の調整・管理・保管・払い出し

輸血用血液製剤各種(超緊急輸血への対応を含む)

当部では、照射赤血球液、新鮮凍結血漿、照射濃厚血小板などの血液製剤を血液センターより手配し、適切な管理・保管のもと、適合試験を行い払い出しています。夜間休日問わず、超緊急輸血への対応も24時間体制で行っています。

貯血式自己血

あらかじめ貯血して専用保冷庫で保管している自己血を手術時あるいは術後に払い出しています。

自己フィブリン糊

圧迫止血が困難な手術の際、止血に役立つと期待しています。整形外科、脳神経外科、内視鏡治療部における手術時に使用しています。

アルブミン製剤

血漿分画製剤の中の、人血清アルブミン製剤(等張アルブミンおよび高張アルブミン)の保管、管理を当部で行っています。アルブミン製剤は献血血漿由来であり、適正に使用されなければなりません。当院では輸血療法院内監査委員会および輸血療法委員会にて製剤の適正使用について多職種で検討しています。

さい帯血

臍帯血の移植予定がある場合、臍帯血バンクより納品し、移植当日まで当部で冷凍保管、移植日に出庫します。移植当日は当部または当該科で、凍結製剤を急速解凍し患者様へ投与します。

骨髄液(血漿・血球除去などの処理)

骨髄移植の際に、不要な血球成分、血漿成分を除去しています。

樹状細胞

免疫細胞の一種であり、がんワクチン効果治療に用いられる樹状細胞の採取をしています。 成分採血装置を用いた採取後、細胞調製センター (cell processing center, CPC) において管理を行っています。

ヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞(テムセルHS注)

造血幹細胞移植後にGVHDを発症した際に、治療薬として用いられるヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞(テムセルHS注)の管理・調整を行っています。

顆粒球

小児腫瘍内科と協力して顆粒球輸血を行っています。広域スペクトルの抗生剤、抗真菌剤を使っても感染症が進行してしまい、かつここを乗り切れば好中球が増えてくることが見込まれるときに行います。

フォトギャラリー

クリックすると大きな画像が表示されます。