この項目については、適当な日本語訳が見つからず、「適切な対応」 vs. 「不適切な対応」と訳してみますが、以下に、3つの具体例を挙げて説明します。

①悪い知らせ(Bad news)を認める:悪い知らせを積極的に知らせるvs. 秘密にする(Telling unpleasant news proactively. vs. Keeping secrets)

概要

我々の社会は秘密を許容しません。悪い知らせ自体は受け入れられますが、それを隠すことは受け入れられません。悪い知らせの隠ぺいは、悪い知らせそのものよりも大きなOutrageを引き起こします。

「誰にも絶対にバレないと信じて隠し続けられる」もしくは「もし秘密がばれたとしても、事前に話さなかったことを絶対に責められない」という絶対的な自信がある人はおそらくいないでしょう。そうであれば、すぐに自分から真実を語るべきです。十分に説明の準備ができていなくても、弁護士が反対しても、上司が止めても、です。隠ぺいが発覚した時のpublicのoutrageはとてつもなく大きいのです。

まとめ

秘密を隠すことは、後に発覚した際に大きなOutrageを引き起こすため、初めから、悪い知らせを認めることが最善の策です。透明性と誠実さが重要な要素となります。

②Apologizing for misbehavior(不正行為を謝るか) vs. Not apologizing for misbehaviors(謝らないか)

概要

我々の社会は悔悟しない罪人を許容しません。一方で、悔悟した罪人は許されます。不正行為の重大さよりも、それを真摯に認めて謝罪するかどうかの方が重要であり、それに伴うOutrageも同様です。謝罪の言葉を真摯に述べることが非常に大切です。

謝罪の重要性

謝罪を避けることは大きな代償を伴います。謝罪の重要性を示すために、西洋社会のカトリック教会の「許しの5ステップ」を見てみましょう。

  1. 悪事を認める。
  2. 謝罪の言葉を口にする。
  3. 危害を被った人に埋め合わせをする。
  4. もう繰り返さないことを誓う。
  5. 罪を償う。(社会に対して、悪事を認めることに対して恥をかかされる。)

この5つの過程を経れば許され、経なければ許されません。犯した悪事が「許されない」のではなく、悪事を犯した者が「許される過程を経ていない」のです。

③Responding with compassion(思いやりを持って対応する) vs. Technocratically(技術的に対応する)

概要

リスクコミュニケーションにおいて、人々の懸念に対して思いやりを持って対応するか、技術的に対応するかは、Outrageに大きく影響します。ここでは簡易的に「エンジニア(engineer)」と「不安を抱えている主婦(concerned housewife)」を典型例として(少し極端ではありますが)説明してみましょう。エンジニアはデータや証拠に基づいて科学的に対応する傾向があり、相手や自分の感情も作用されず、社会的な配慮を避けることが多いです。一方で、一般の人々、特に不安を抱えている主婦は、体験や感情に大事にして判断し、逆に感情を表出しない人間を信頼できないとさえ感じることがあります。これらの異なるアプローチが衝突することで、リスクコミュニケーションは難しくなります。

リスクに関する論争というのは、データ重視のエンジニアと感情重視の一般の人々の争いです。「エンジニア」も感情を理解できないわけではないですし、「不安を抱えている主婦」もデータを理解できないわけではありません。ただ、この2者が対峙すると、互いの特徴がお互いを刺激し合い、対立が深まることが多いのです。この衝突を起こさないこと・避けることがリスクコミュニケーターの役割です。

対応法

リスクコミュニケーションは「人間同士の対話」であることを理解することが最も重要です。エンジニアも普通の人間であり、一般の人々と同じように対人スキル(human skill)を必ず持っています。リスクコミュニケーションで必要なスキルは、専門知識よりも、人間関係をうまく築くための対人スキルなのです。対人スキルで重要なことは、耳を傾けること(listening)や経験やたとえ話などを使って語り掛けること(storytelling)などで、共感や思いやり(compassion)を持って対応することが大切です。

まとめ

リスクコミュニケーションは「人間同士の対話」であることを理解することが最も重要です。データや論理だけでなく、相手の感情や懸念に対して思いやりを持って対応することが重要です。エンジニアも一般の人々と同様に対人スキルを活用し、耳を傾け、共感を示すことで、より効果的なリスクコミュニケーションに繋げることができます。


――Link to contents――

 Outrage Management
 1.自主的 (Voluntary) vs. 強制的 (Coerced)
 2.自然のもの (Natural) vs. 人工的なもの (Industrial)
 3.身近なもの (Familiar) vs. 奇異なもの (Exotic)
 4.悪い想起性がない (Not memorable) vs. 悪い想起性がある (Memorable)
 5.恐れられていない (Not dreaded) vs. 恐れられている (Dreaded)
 6.慢性的 (Chronic) vs. 破滅的 (Catastrophic)
 7.認識可能 (Knowable) vs. 認識不能 (Unknowable)
 8.自分がコントロールする (Individually controlled) vs. 他人がコントロールする (Controlled by others)
 9.公平 (Fair) vs. 不公平 (Unfair)
 10.道徳が関係しない (Morally irrelevant) vs. 道徳が関係する (Morally relevant)
 11.信頼できる情報源 (Trustworthy sources) vs. 信頼できない情報源 (Untrustworthy sources)
 12.適切な対応 (Responsive process) vs. 不適切な対応 (Unresponsive process)