概要

リスクをHazard(危険)として捉える場合、それは「どれだけの損害や危害が生じるか」という定量的な問題です。一方で、道徳的観点が関わると「正しいか正しくないか」という新たな観点が生まれ、Outrageとしての捉えられ方は定量的ではなくて定性的になります。具体的な例を見て理解してみましょう。

環境汚染:

近年、社会は「環境を汚染すること」を悪いこと、間違ったこと、非倫理的なこと、道徳に反することと見なすようになっています。これは大きな価値観の変化です。例えば、人食(Cannibalism)は、たとえ栄養価的にどんなに優れた栄養摂取法だとしても間違っています。また、奴隷制度(Slavery)は、たとえどんなに効率的生産法だとしても間違っています。(あくまでも「たとえ」の話です。)

同じように、「環境汚染」も間違っているとされるならば、それについては道徳的にしか語れなくなります。環境への影響を定量的に計算することは受け入れられません。

このような場合、トレードオフや費用対効果の観点で話すことが難しくなります。費用対効果の観点は、Hazardを分析するための方法ですが、Outrageに対しては無神経で道徳に反した方法です。

児童の性的虐待:

警察署が予算を組むとき、児童の性的虐待対策にどれだけの予算を充てるかを議論しなければなりません。その際、もちろんリスクと費用のバランスを考えます。例えば、いくらの予算を投じることで何人の児童を救えるかという計算なしに、予算を決めることはできません。

しかし、そのような試算結果をそのまま引用して、警察署長が「来年度の最適な性的虐待児童の数は17人です」と言うことはないでしょう。もしそのような発言をしたら、ものすごく非難されるでしょう。

性的虐待児童の最適な数は0人です。ただ、誤解してはいけないことは、もし児童の性的虐待が1件でも起きたたら、警察署長は解雇されるべきだ、市の全ての予算をその対策に充てるべきだ、という話ではないのです。

対応法

児童の性的虐待の例を見てみましょう。

計算上のリスク評価は必要ですが、道徳的には性的虐待の被害者「0人」を目指すべきです。社会は警察署長に同じ価値観を支持することを求めます。そして、「児童の性的虐待は絶対に許されない」と宣言し、それを目指して努力することです。それは偽善ではなく、価値観の表明です。警察署長が0人を目指して努力し、それが達成できないことは道徳的な失敗で悲劇であるとして捉え、努力し続けることが求められるのです。

まとめ

道徳的観点が無関係な問題(Hazard)と道徳的な観点が関係する問題(Outrage)の違いを理解することは重要です。特に現代社会では、道徳的観点が強く関わる問題については、定量的な評価よりも社会的価値観に基づいた判断が求められることがあるのです。


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 Outrage Management
 1.自主的 (Voluntary) vs. 強制的 (Coerced)
 2.自然のもの (Natural) vs. 人工的なもの (Industrial)
 3.身近なもの (Familiar) vs. 奇異なもの (Exotic)
 4.悪い想起性がない (Not memorable) vs. 悪い想起性がある (Memorable)
 5.恐れられていない (Not dreaded) vs. 恐れられている (Dreaded)
 6.慢性的 (Chronic) vs. 破滅的 (Catastrophic)
 7.認識可能 (Knowable) vs. 認識不能 (Unknowable)
 8.自分がコントロールする (Individually controlled) vs. 他人がコントロールする (Controlled by others)
 9.公平 (Fair) vs. 不公平 (Unfair)
 10.道徳が関係しない (Morally irrelevant) vs. 道徳が関係する (Morally relevant)
 11.信頼できる情報源 (Trustworthy sources) vs. 信頼できない情報源 (Untrustworthy sources)
 12.適切な対応 (Responsive process) vs. 不適切な対応 (Unresponsive process)