概要

リスクの認識可能性(Knowability)には、特に重要な3つの因子があります。それは、不確実性(Uncertainty)、検出不可能性(Undetectability)、専門家間の不一致(Expert disagreement)です。それぞれがリスク認識にどのような影響を与えるか、そしてそれに対する対処法について説明します。

不確実性(Uncertainty)

リスクの不確実性は、そのリスクがどの程度不確実であるか、またはエラーバー(誤差棒)がどのくらい大きいかということです。エラーバーが大きいほど、リスクが予測しにくくなります。

下の図のような2つのリスク事象を比較するとしましょう。

リスク1は危険性が高いが不確実性が低くエラーバーが小さい。

リスク2は危険性が低いが不確実性が高くエラーバーが大きい。

この2つを比較した場合、専門家はRisk 1をより深刻なものと判断するが、一般の人々は、エラーバーの最高点に注目しがちであるため、リスク2の方が危険と感じることが多いです。これは、最悪シナリオを重視する傾向があるためです。

専門家間の不一致(Expert Disagreement)

専門家間の不一致は、不確実性よりも大きな影響を与えることがあります。ある事象に対して専門家が異なる評価をする場合、一般の人々はその事象がより危険であると感じることがあります。

あるリスクに対して、専門家全員が10点中7点をつける場合と、半数の専門家が7点もう半数が3点をつける場合、どちらを怖いと感じるでしょうか?答えは、後者です。専門家の間でも意見が分かれているなると、一般の人々は「本当はもっと危険なのかもしれない」と感じるからです。

検出不可能性(Undetectability)

検出不可能性は、リスクが目に見えず感じられないことです。例えば、放射線や発癌物質は目に見えず、すぐには影響が現れないため、非常に恐怖を感じさせます。

スリーマイル島事故の際、取材した記者たちは「放射能事故が戦争よりも怖い」と言ったそうです。その理由を訊くと「戦場では少なくとも撃たれていない場合にはそれが分かるからね」と答えたそうです。放射線は目に見えない、後年になってがんとして影響が現れるかも知れない、よって、恐怖が増すということです。

対処法

専門家間の不一致を不確実性に変える方法もあります。前述の通り、専門家の意見が一致しないことは、不確実性よりも悪い影響を与えるからです。その方法は、単に不一致の幅を示すことです。下の例で見てみましょう。

例: ある工場の汚染リスク評価に対する対応

シナリオ1:

工場の担当者が「今回の汚染について、我々の評価ではリスクは10^-8です」と発表しました。その後、環境局の担当者が「その評価では安全が担保されていない。リスクは10^-7です」と反論し、さらに環境団体の代表が「彼らの評価は両方とも間違いで、我々の評価ではリスクは10^-6ともっと深刻です」と主張しました。これらの評価には100倍の幅があります。一般市民はこの3者の異なる主張を見て、この汚染のリスクは非常に不確実で、つまり深刻だと判断するでしょう。

シナリオ2:

工場の担当者が次のように発表した場合を考えてみましょう。「今回の汚染について、我々の評価ではリスクは10^-8と考えています。しかし、環境局と話し合った結果、環境局はリスクを10^-7と評価しているようです。さらに環境団体とも協議したところ、環境団体の評価ではリスクは10^-6です。つまり、今回の汚染のリスク評価は10^-8から10^-6の間のどこかです。」

このようにリスクの幅を明確に示すことで、専門家の不一致は不確定性に置き換えられました。また、環境団体の10^-6という最悪のシナリオ評価も尊重することで、一般市民の不安(Outrage)を大幅に取り除くことが可能になります。

まとめ

リスクの認識可能性には、不確実性、検出不可能性、専門家間の不一致という3つの主要な因子が関わっています。これらの因子が一般の人々のリスク認識に与える影響を理解し、適切に対処することで、リスクに対する不安(Outrage)を軽減することができます。情報の透明性や可視性を高め、専門家の見解を統合し、不確実性を尊重し示すことが重要です。


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 Outrage Management
 1.自主的 (Voluntary) vs. 強制的 (Coerced)
 2.自然のもの (Natural) vs. 人工的なもの (Industrial)
 3.身近なもの (Familiar) vs. 奇異なもの (Exotic)
 4.悪い想起性がない (Not memorable) vs. 悪い想起性がある (Memorable)
 5.恐れられていない (Not dreaded) vs. 恐れられている (Dreaded)
 6.慢性的 (Chronic) vs. 破滅的 (Catastrophic)
 7.認識可能 (Knowable) vs. 認識不能 (Unknowable)
 8.自分がコントロールする (Individually controlled) vs. 他人がコントロールする (Controlled by others)
 9.公平 (Fair) vs. 不公平 (Unfair)
 10.道徳が関係しない (Morally irrelevant) vs. 道徳が関係する (Morally relevant)
 11.信頼できる情報源 (Trustworthy sources) vs. 信頼できない情報源 (Untrustworthy sources)
 12.適切な対応 (Responsive process) vs. 不適切な対応 (Unresponsive process)