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多重重力レンズ効果と連続極限

Mattigの公式は一様宇宙での距離測定法で,非一様性を均した近似法である。一 方Dyer-Roederの公式は,取敢えず一様に分布する物質の効果のみを取り入れて 距離を求め,非一様性の影響は重力レンズ効果で考慮しようという,先送 り的な方法である。

図 6: 多重重力レンズ効果
\includegraphics[width=0.9\textwidth]{fig7.eps}
「この先送り的な方法は非一様な宇宙での距離測定法としてふさわしいのか?」 という問題に対して,最近Yoshida, Nakamura & Omote (2005)において1つの見解が得られた。 そこでは,まず,図6のように観測者と光源の間に複数のレンズ天体を置き(これを 非一様性とみなす),これらのレンズ天体による多重重力レンズ効果を定式化し た。次に,隣り合うレンズ面の間隔が0となる極限(連続極限)での重力レンズ効 果による増光効果を求め,これをDyer-Roederの公式に取り込んだ。その結果得 られた距離測定公式は,Sachs (1961)によって導かれた一般相対論的幾何光学 の方程式を満たすことがわかった。これは,「多重重力レンズ効果の連続極 限の下では先送り的な距離測定法でも,光源までの距離として十分意味のある公 式を与える」ことを示している。

またYoshida, Nakamura & Omote (2003)では,多重重力レンズ方程式(式[1]の多重重力レンズ版) を使って,様々なレンズ天体の配位に対して,図6における第1レンズ面(観測で きる天球上の面)から光源面への対応(写像)の平均が求められた。 その結果,第1レンズ面上での任意の2点と,それぞれの点に対応する光源面上の 2点は,平均的には,互いに平行でレンズ面上の2点間の距離は光源面上の$B_N$ 倍となることが示された($B_N$は宇宙モデルと光源の赤方偏移,レンズ天体の数 $N$に依存する)。更に,連続極限(宇宙の平均密度を一定にして$N$を無限大にす る極限と等価)をとると,$B_N$ $D_\mathrm{FL}/D_\mathrm{DR}$ ( $D_\mathrm{FL}, D_\mathrm{DR}$はそれぞれ Mattigの公式で得られる光源まで の距離,Dyer-Roederの公式で得られる光源までの距離)となることがわかった。 これは,「非一様宇宙において,2つの天体の間隔を観測すると,平均的には一様 宇宙と全く同じものになる」ことを示している。

 

以上のように,多重重力レンズ効果の手法は,非一様宇宙を理論的に解明する為 の有効なアプローチであると考えられる。


yoshidah
平成17年7月21日