福島県立医科大学 医学部 脳神経外科
専門分野
脳腫瘍
頭蓋底手術
神経内視鏡手術
脳血管障害
脳神経血管内治療
小児脳神経外科
機能的脳神経外科

脳腫瘍
 脳腫瘍には良性脳腫瘍(髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫など)と悪性腫瘍(悪性神経膠腫、転移性腫瘍、脊索腫、耳・鼻原発頭蓋底進展癌など)がありますが、あらゆる腫瘍に対して手術を中心とした集学的治療を行っています。手術では、神経内視鏡を用いて可能な限り患者様に負担の少ない低侵襲手術をおこないます。しかし侵襲があっても根治的治療が必要な場合には、齋藤教授が専門とする頭蓋底外科手術を用います。また、当科には脳機能の術中モニタリングで国内をリードしてきた伝統的実績があり、脳機能をモニタリングしながら安全に手術を行うことができます。
髄膜腫
 特に頭蓋底部の髄膜腫が多く紹介されてきます。髄膜腫は良性ですが、頭蓋底部に発生すると神経や血管を巻き込み脳幹を圧迫するために手術は容易ではありません。当科では頭蓋底手術と術中モニタリングを用いて安全確実に手術を行います。
脳幹部を強く圧迫する頭蓋底部髄膜腫、30歳代女性:術前(左)と術後(右)のMRI
下垂体腺腫
 内分泌内科と定期的にカンファランスをおこない、非機能的腺腫も機能的腺腫も完治を目指して手術しています。手術は鼻孔から内視鏡でおこないますので、患者様の負担は少なく、危険性もほとんどありません。当科では2009年からハイビジョン内視鏡を導入して良好な結果を得ています。
神経鞘腫
 前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)、三叉神経鞘腫などの手術治療をおこなっています。これらの腫瘍は通常成長が緩徐ですので、小さな腫瘍はMRI検査で経過観察します。大きな腫瘍や成長が明らかな腫瘍では、患者様と相談して手術を選択します。また、当科には両側に聴神経鞘腫ができる神経線維腫症2型の患者様が多く紹介されてきます。治療は容易ではありませんが、状態に応じた最適な治療を行っています。
神経線維腫症2型、20代女性:左から初回術前、術後、8年後術前、術後のMRI
神経膠腫
 腫瘍の悪性度や進展に応じて、手術、化学療法、放射線治療を用いた集学的治療を行います。当院にも術中MRIを導入する計画ですが、現在はありません。各種の術中モニタリングをもちいて、神経症状を悪化させないように腫瘍を摘出しています。また、可能であれば神経内視鏡をもちいて侵襲の少ない摘出術を行います。
悪性神経膠腫、50歳代男性:術前(左)と内視鏡による摘出術後(右)のMRI

脳幹部良性神経膠腫:術前(左)と内視鏡による摘出術後(右)のMRI
脊索腫、頭蓋底進展がん:頭蓋底手術を参照してください。
頭蓋底手術
 頭蓋底手術は、頭蓋底部の治療困難な病変のための手術法です。脳や神経を保護しながら手術するために、頭蓋底部の骨や顔面骨を外してアプローチします。この手術は高度の専門性を要するために、専門としている脳神経外科医は全国でも多くはありません。齋藤教授はこれまで25年に渡り頭蓋底外科に取組んで、専門的な頭蓋底アプローチを要する頭蓋底手術を600例以上行っており、難しい頭蓋底腫瘍の患者様が多く紹介されてきます。
一般的脳神経外科アプローチと頭蓋底外科アプローチの違い
良性腫瘍に対する頭蓋底外科手術
 髄膜腫・神経鞘腫など頭蓋底部の良性腫瘍には、術前3D画像から最適で最も侵襲の少ないアプローチを選択し、ナビゲーションシステムやモニタリングを用いて安全で確実な摘出術を行います。全摘出を目指しますが、神経機能を温存するために腫瘍を一部残すこともあります(脳腫瘍の説明も参照してください)。
頭蓋底髄膜腫、60歳代女性: 3D画像(左)、左側方からの手術シミュレーション(中)、腫瘍全摘出後のCT(右)

骨腫、30歳代男性:術前(左)と腫瘍全摘出術後(右)のCT
悪性腫瘍に対する頭蓋底外科手術
 脊索腫・軟骨肉腫などやや悪性の腫瘍には、ナビゲーションシステムやモニタリングを用いて可能な限り完全な摘出術を行います。最近では侵襲の少ない経鼻内視鏡アプローチを選択することが多くなりました。一方、耳・鼻副鼻腔などから頭蓋底部に進展した癌などの悪性腫瘍には、耳鼻科や形成外科と協力して根治的切除術と再建術を行います。
軟骨肉腫、20歳代男性:術前(左)と腫瘍全摘出術後(右)のCT

脊索腫、10歳代女性:術前(左)と頭蓋底手術による腫瘍全摘出術後(右)のMRI

脊索腫、70歳代男性:術前(左)と経鼻内視鏡手術による摘出術後(右)のMRI

頭蓋底に進展した上顎癌、40歳代男性:左から術前MRI、頭蓋底切除範囲、一塊切除再建術後のCT
神経内視鏡手術
 神経内視鏡手術とは、脳の中に直径3~5mmの小さな内視鏡を入れて観察しながら行う手術のことです。硬性鏡と、軟性鏡があり手術によって使い分けています。従来の顕微鏡手術に比べ、脳への入り口が狭くてもよいので、患者様の負担が小さくてすみます。この分野は急速に発展しつつあり、疾患の守備範囲も徐々に広がってきています。まだ発展途上の分野でありますが、現在行っている内視鏡手術をご紹介します。
内視鏡下経鼻下垂体腫瘍摘出術
 下垂体腫瘍の分野は神経内視鏡手術がもっとも進んでいるといっていいでしょう。脳の中央底面に位置する下垂体の腫瘍は、従来から鼻の穴、唇の下からのアプローチで顕微鏡下に行うのが一般的です。最近では鼻の穴から内視鏡のみで腫瘍を摘出する方法が行われるようになってきました。この方法では従来の方法に比べ術後の痛みや腫れもほとんどありません。また、鼻の奥で術野を大きく開けることで、観察できる範囲も広くなり、腫瘍の摘出率が向上します。腫瘍の境界を正常部分からはがして、なるべく腫瘍を残さずに摘出することを心がけています。ホルモン産生腫瘍においては全摘出が治癒につながるので、可能な限り全摘出を目指します。
鼻の奥で粘膜を切開して骨を削って手術をします。
術前
術後
   
吸引管や、小さなヘラで腫瘍を正常構造物からはがします。
術前
術後
内視鏡下血腫除去術
 当院で行っている脳出血に対する手術では、4cmの皮膚切開のあと骨に1.5cmの穴を開けて、直径1cmの透明の筒を脳内に挿入します。脳実質を経由して血腫に到達し、硬性鏡で観察しながら血腫の吸引と止血を行います。50cc以上の大きな血腫も除去可能です。また脳室という水をためる部屋に出血した場合も軟性鏡にて除去が可能です。従来の開頭手術に比べ、術後の回復が早く、リハビリも早くから始められます。
・血腫除去手術の図
吸引管は電気メスと接続し、止血することができます。
術前CT
皮質下出血 小脳出血 脳室内出血
術後3日目のCT
皮質下出血 小脳出血 脳室内出血
術後骨の穴が目立たないように、
人工骨ペーストなどを使って形成します。
内視鏡下小開頭腫瘍摘出術(Key hole surgery=鍵穴手術)
 眉毛に沿って4~5cmの皮膚切開を設け、3cmの骨の穴を開けます。内視鏡を使い、顕微鏡では観察が困難な死角を観察しながら、特殊な道具で処置が可能です。下垂体腫瘍の一部、前頭蓋底腫瘍などが対象になります。骨の出っ張りの向こうや、神経の裏がよく見えます。
顕微鏡手術との比較
・顕微鏡手術の図と顕微鏡画像
顕微鏡では頭蓋外からのぞきこみます。
・内視鏡手術の図と内視鏡画像
内視鏡は頭蓋内に“目”が入って観察します。視野角が広いので広く観察できます。
・小開頭下垂体腫瘍手術の図、術中写真、術後創部
角度のついた内視鏡で観察しています。視神経の裏がよく見えます。
 
術後2週間の状態です。
眉毛に沿った傷はほとんど目立ちません。
 
小開頭脳実質内腫瘍摘出術
 硬性鏡と、透明シース(経1cmの透明な筒、またはViewSiteTM)を使って、脳実質内にある腫瘍を1.5〜3cmの穿頭または小開頭からアプローチし、腫瘍を摘出したり、一部を検査に出したりします。
・血管腫摘出の図と術中写真、術後創部
・ViewSiteTMによる腫瘍摘出術
 
↑透明シース(VIEWSITETM   ↑内視鏡下脳内腫瘍摘出術
↑術中の内視鏡所見(黄色い線の部分を切開し、その下の腫瘍を摘出しています)
症例① ↑術前 ↑術後
症例② ↑術前 ↑術後
軟性鏡手術
 各種の脳室内病変にたいする手術、脳に水のたまる水頭症に対する第三脳室底開窓術、頭蓋内嚢胞性病変の開放術などは内視鏡手術の良い適応疾患です。
脳の中の病気を取り除くためには、必ず頭や顔に傷をつけなければ手術はできません。神経内視鏡という道具を駆使して、その傷を1cmでも小さく、脳や体に負担が少なくなるように心がけています。
脳血管障害
 
出血性脳血管障害
・脳動脈瘤
 脳の血管の枝分かれしている部分が膨らむことがあります。これを「脳動脈瘤」と言います。動脈瘤は通常の血管よりも壁が薄いため、1年におよそ1%の確率で破れると言われています。脳動脈瘤が破れると脳を包んでいるくも膜の下に出血します。これはくも膜下出血と呼ばれます。動脈瘤が破れた場合には開頭してクリッピングと呼ばれる手術が行われておりますが、最近は血管内治療によるコイル塞栓術という治療も行われるようになってきました。くも膜下出血になると、脳の血管が細くなる脳血管攣縮を合併することがあり、その対策として脳槽灌流療法を行っています。
 脳ドックなどで未破裂(破れていない)脳動脈瘤が指摘される場合にはくも膜下出血を予防するため治療を行うことがありますが、治療の必要性や治療方法についてはご相談ください。
 当施設はこれまで1000例以上の脳動脈瘤に対するクリッピングの経験があります。また、頭蓋底手技を活用しながら、新しい治療法も行っております。

巨大血栓化動脈瘤に対する顎動脈を用いたバイパス術
左上下図は術前、右上下図は術後
・脳動静脈奇形
 脳動静脈奇形とは生まれつき血管が異常に吻合している病気で、脳出血や痙攣の原因となります。手術による異常な部分の摘出術や放射線による治療が行われます。これらの治療をより安全かつ効果的に行うために血管内治療、摘出手術、定位放射線治療を組み合わせた最適な治療を行います。
・硬膜動静脈瘻
 脳や脊髄にできる血管の病気です。動脈と静脈が直接つながり、耳鳴りや複視(物が二重に見える)、脳出血の原因となることがあります。手術や血管内治療で動脈と静脈のつながりをふさぐことで、この症状を抑え、出血を予防することが可能です。
 これらの手術をより安全に行うために、手術中に電気生理を用いたモニタリングと脳血管の血液の流れを確認するために蛍光血管撮影を行っております。モニタリングは神経を弱い電気で刺激しながら、神経の新たな損傷がないことを確かめながら手術を行います。蛍光撮影は眼科での検査でも用いられるお薬(fluorescein)を投与して、手術顕微鏡で脳血管の血液の流れを確認します。
術中運動神経モニタリング
大脳運動野を刺激して、顔面や上肢、下肢、声帯筋などから誘発筋電図を記録します。

動静脈瘻におけるICGを用いた蛍光血管撮影
左図は可視光による画像、右図は動脈からのICGを注入した画像
虚血性脳血管障害
・脳梗塞
 脳の血管がさまざまな原因で詰まると、その血管が栄養している脳組織が障害されます。障害される部位により後遺症が異なります。脳の血管が閉塞しても3時間以内に病院に搬送された患者様は、必要な検査を行い4.5時間以内にt-PA(組織型プラスミノゲン・アクチベーター)を用いた血栓溶解療法を行うことで、閉塞部位を開通させ後遺症を予防することができます。またt-PAで血管が開通しない時には、血管内治療で血栓回収を行います。早期に専門病院を受診することが重要ですので、症状がみられたら直ぐにかかりつけ医または救急隊に相談してください。当院では関連病院と協力して、県内の脳梗塞早期治療体制を構築しています。
福島赤十字病院でのt-PA血栓溶解療法

 また、慢性期の脳虚血には脳血流の改善のために浅側頭動脈−中大脳動脈吻合術を行うこともあります。
・内頸動脈狭窄症
 心臓から脳に行く途中で頸の血管(内頸動脈)が細くなることを内頸動脈狭窄症といい、脳梗塞の原因となることがあります。軽症では生活習慣の改善やお薬で、重症になると手術が必要になることがあります。頸動脈内膜剥離術という手術が行われておりますが、頸動脈ステント留置術という治療も行われるようになりました。
・もやもや病
 脳の血管が進行性に狭くなる病気で、子供と大人に発症します。もやもや病は子供の脳の血管の病気の中で最も多いとされ、子供では手足の脱力など脳の血液が不足する症状で発症し、大人では脳出血が多いと言われております。お薬による治療はなく、脳の血流の低下を改善させるための手術が有効です。当院では、直接血管吻合(浅側頭動脈−中大脳動脈吻合術)と側頭筋や帽状腱膜などを用いた間接血管吻合を組み合わせた複合的血行再建術を行っています。
脳神経血管内治療
 脳神経血管内治療とは、血管の中に「カテーテル」という長い管を入れて行う治療です。そのため、主に脳や脊髄の血管の病気が治療の対象となります。従来の手術とは異なり、皮膚に傷をつけたり脳を直接触ったりすることのない治療ですので、患者様の体への負担が小さくて済むことが特徴です。従来の手術と脳血管内治療のどちらが安全に行えるか、患者様の要望等も合わせて判断します。
脳動脈コイル塞栓術
 コイル塞栓術とは、動脈瘤の中にカテーテルを進め、そこから「コイル」と呼ばれる柔らかい金属(プラチナでできています)を動脈瘤の中に詰めることで、動脈瘤の中に血液が入らないようにして出血を予防する治療です。脳動脈瘤の形によってはコイルが血管内に出てこないように風船付きのカテーテルやステントと呼ばれる筒状の金属などで押さえながらコイルを入れる場合もあります。
頸動脈ステント留置術
 頸動脈ステント留置術とは「ステント」と呼ばれる筒を頸動脈が細くなった部分に入れて、内側から血管を押し広げる治療です。ステントだけではなく、医療用の風船も使用しながら細い血管を広げるのが一般的です。この時、血管の内側についている「粥腫」とよばれる呼ばれる部分(粥腫が溜まるのが血管が細くなる原因です)が、ステントや風船の刺激で剥がれて飛んでいかないように、それらをブロックするためのフィルターや風船も一緒に使用します。
脳動静脈奇形
 「ナイダス」と呼ばれる異常な血管の塊に栄養を送っている血管にカテーテルを入れて、コイルや瞬間接着剤のような液体をそこから挿入して、ナイダスを塞ぐ治療です。これらの血管は、ナイダスだけでなく正常な脳にも栄養を送っていることがあるので、そのような血管は塞いでしまわないように注意深く症状を見ながら血管を塞ぎます。
硬膜動静脈瘻
 硬膜動静脈瘻の塞栓術には経静脈的な塞栓術と、経動脈的な塞栓術があります。一般的には経静脈的に異常な血管が流れ込んでいる静脈洞を閉塞させてしまうことが根治術となりますが、その静脈洞にたどり着けない時や、正常な脳の血流がその静脈洞を使って還流している場合には罹患静脈洞を閉塞させることができないため、流入している動脈を一本ずつ閉塞させます。
腫瘍血管塞栓術
 腫瘍に栄養を送っている血管にカテーテルを入れて、コイルや瞬間接着剤のような液体をそこから挿入して、腫瘍の血管を塞ぐ治療です。これらの血管は、腫瘍だけでなく正常な脳にも栄養を送っていることがあるので、そのような血管は塞いでしまわないように注意深く症状を見ながら血管を塞ぎます。
小児脳神経外科
 福島県には「こども病院」や「小児医療センター」がないため、福島県立医科大学が県内の小児脳神経外科のセンターとして機能しています。産科、小児科、小児外科、形成外科、泌尿器科、整形外科の先生方と連携しながら、先天奇形(二分脊椎症、先天性水頭症)、脳腫瘍、脳血管障害(モヤモヤ病など)、外傷などを中心に治療に当たっています。

 例えば二分脊椎症(脊髄髄膜瘤)では、福島県内で出生すると推定される患者(年間6、7例)のうち4、5例が福島医大で出生し、治療しています。二分脊椎症や胎児水頭症など出産後早期に外科治療が必要となる可能性が高い疾患では、当院周産期医療センターと連携し、産科、小児科(NICU)との合同チームのもとで、出生前のカウンセリングから、出産、手術、全身管理と綿密な治療計画のもとで治療を行っています。

 脳神経外科からのご紹介だけではなく、地域の小児科や産科からの直接の紹介も受け付けています。また国立病院機構福島病院(須賀川市)のNICUとも連携して手術・診療を行っています。
機能的脳神経外科
 機能的脳神経外科とは、薬では治すことができない不随意運動(パーキンソン病、振戦など)、てんかん、痛み、痙縮など、脳の機能的な異常を外科的に治療する分野です。これらの治療には脳機能の正確な同定が必要ですが、画像診断とコンピュータシステムの進歩により、現在では種々の脳機能部位を極めて精細に判定して治療することが可能です。また、近い将来コンピュータシステムがさらに発展し、再生医療も実現が予測されることから、機能的神経外科分野は今後も大きな発展が期待されています。
 当科では、既に健康保険の適応となっている機能的神経外科全般にわたり治療が可能です。実験的治療や研究のための治療ではなく、保険診療の範囲で治療を行います。一部に高額な治療も含まれますが、身体障害者手帳2級以上をお持ちの方や、パーキンソン病等で特定疾患を受けられている方など、費用の自己負担が殆どありません。
 具体的には以下の治療を行っています。
難治性てんかん
 薬物治療を2種類以上、2年以上行っても年に1〜2回以上の全身性痙攣を起こす場合には外科的治療を考慮します。特に側頭葉てんかん、MRIで病変が確認できる難治性てんかんの患者様は根治的外科治療のよい適応になります。術後には、7〜8割以上の発作軽減または消失が期待でき、薬剤の減量や中止も可能となります。
 根治的な外科手術が適応とならない場合でも、当科では緩和的手術方法を施行することが可能です。緩和的外科治療には、脳梁離断術や迷走神経刺激療法があり、てんかん発作を概ね5割以上少なくすることが可能です。また行動異常や精神状態の改善が見込めます。
 これらの手術の適応や治療方法を決めるために、当院では心身医療科、神経内科、小児科とも定期的に検討会を開催し、密に連絡をとっています。必要により長時間ビデオ脳波測定、硬膜下電極留置、PET検査なども施行して、安全で確実な手術ができる様にしています。
緩和的な迷走神経刺激療法
持続的なごく少量の電気刺激により、発作を軽減し、発作回数の低下が期待できます。

脳深部刺激療法 Deep Brain Stimulation (DBS)
 薬物での調整が困難となってきたパーキンソン病、振戦、ジストニアなどの不随意運動および難治性の慢性疼痛が治療の対象となります。
 具体的には、脳深部の特殊な場所に細い電極を植え込み、電気的な刺激を行って治療します。病気によって電極を留置する場所は異なりますが、MRIで計測して寸分の狂いなく電極を留置することができます。治療効果は疾患によりますが、8割以上の可能性で振戦や固縮などの運動障害が劇的に改善します。
 定位的な外科治療は本邦でも40年以上の歴史をもった治療ですが、脳深部刺激療法が登場して、より安全な治療が可能となりました。パーキンソン病ガイドラインでも薬物治療と並び、重要な治療方法として確立しています。
脳深部刺激療法
脳内に刺激電極を留置して、胸部の刺激装置から電気刺激をします。
症状により微調節が可能な治療方法です。
痙縮治療
 脳卒中や脊髄損傷の後には、少なくとも半数以上の方が、麻痺している手足が固まってしまう病態になります。これを専門用語では痙縮や拘縮と呼びます。関節が固まってしまった完全な拘縮では、整形外科的な治療の追加が必要となる事もあります。しかし、現在ではボツリヌスの施注療法、髄腔内へのバクロフェン持続注入治療、微小神経切除術を痙縮や拘縮の状況にあわせて行うことにより、多くの方で症状改善が得られます。痙縮が改善するにより、疼痛の緩和、着衣の改善、歩行の改善など生活面で多くの効果が期待できます。
 また、痙性斜頸などの局所的なジストニアでお困りの方も是非ご相談下さい。
髄腔内バクロフェン持続注入療法
筋弛緩鎮痛作用のあるバクロフェンを脊髄腔内にポンプで持続注入します。
プログラマにより微調節が可能で、広範囲の痙縮に特効的効果があります。
難治性の慢性疼痛
 当科では麻酔科を主体としたペインクリニック外来部門とも協力して、三叉神経痛、脳卒中後の慢性疼痛、癌性疼痛に対して外科治療を行っています。
 特に硬膜外刺激療法は局所麻酔でも施行可能である安全な方法で、脊髄を硬膜外から刺激して慢性的な痛みを半分以下にすることが可能です。また三叉神経痛、舌咽神経痛、顔面痙攣に関しては、安全・確実な神経血管減圧術を行っています。
硬膜外刺激療法
局所麻酔で電極を硬膜外に挿入し、テスト刺激で効果を確認します。
徐痛効果が確認されたら、刺激装置を皮下に植え込みます。
■■■ 気軽にご相談ください ■
 残念ながら、県内を含めて東北地方では機能的神経外科は余り周知されていません。上記に紹介させて頂いた治療方法以外にも、日進月歩で治療はすすんでおり、安全性もどんどん改良されています。
 患者さま、ご家族の方、更には地域の先生、治療の対象になるかもしれないと思われましたら、是非とも気軽に受診をご相談下さい。

 機能的神経外科問い合わせ先
 脳神経外科外来受付 024-547-1222(月〜金の平日午前9時から午後3時)
 毎週月曜日に機能的外科外来診療を行っています。