Lab People Research Resource Publication
細胞内品質管理に関わる分子ダイナミクス制御

生き物はいつも動いてます。個体としてだけでなく、体を構成する細胞でも、その細胞を構成する細胞内小器官のレベルでも。死ぬと、そのような動きは止まります。

今では生き物を作る分子のカタログはほぼできてきました。生き物の動きは、それら分子の精緻な協奏によって作られているはずです。どうやってそれを生き物はたやすく成し遂げているのか。少なくとも、細胞の中の微小な空間で行われるべき動きが損なわれることで、ときに深刻な病になってしまうことを我々はよく知っています。

研究には現象を記述することが必要です。動きを捉えて記述することは困難な作業ですが、イメージングを定量的に行い含まれている情報を解析をすることで、バイオロジーの世界にこれまで得られなかったような知識を正しく取り込むことができるようになってきました。我々はこのようなアプローチで生まれる新しい細胞生物学を目指しています。

受精に関わる膜融合の分子機構の解明

体長35 mにもなるシロナガスクジラとマウスの精子の大きさはほとんど変わりませんが、必ず精子と卵子は1対1で受精します。ヒトの場合、一度におよそ1〜3億匹の精子が雌性生殖路内に射出され、そのなかで過酷な生存競争に生き残った、たった1匹の精子のみが受精をすることを許されます。

このように、受精に至るまでの過程、特に最終行程である膜融合は、種を超えて共通する精緻でロバストな仕組みが存在するはずです。このことを裏付けるために、長年、膜融合を制御する因子が探索されてきました。我々は遺伝子改変技術に優れ、我々ヒトと同じほ乳類であるマウスを用いて、世界に先駆けて精子と卵子の融合因子、IZUMO1 (縁結びの神様で有名な出雲大社に因んで命名) を同定することに成功しました(Inoue N et al, Nature 2005)。

IZUMO1欠損マウスは、その精子が卵子と膜融合できないために完全な雄性不妊になります (2つ下のカラム図1)。しかし、精子の頭部をインジェクターにより直接卵子に注入し、物理的に融合をバイパスする顕微授精を用いると、IZUMO1欠損精子でも受精することが可能であることから、IZUMO1は融合に特化した因子であることが分かります。

IZUMO1は、はじめ精子頭部のゴルジ体由来の細胞小器官である先体内に存在しますが、精子が融合能を獲得するために必要なエキソサイトーシスを伴う先体反応後に精子細胞膜表面のエカトリアルセグメントに集合して、その部位で膜融合を成立させます (Satouh Y*, Inoue N* et al, J Cell Sci 2012 *equal first author) (図2)。このことから、IZUMO1のダイナミックな局在変化によって、膜融合が制御されていることが分かります。
・PCH (photon counting histogram)、一分子輝度解析の原理についてまとめました。細胞生物学ワークショップ(札幌)での講義内容です(2018修正)。

・細胞生物学ワ―クショップ(神戸)でのFRAP実習で用いた解析マニュアルを紹介します
・エクセルを用いたFRAPの解析プロトコール(2018)
これは入門編の実習のためのものです。


その他Imaging 解析関係、ひとつだけ
・single particle trackingによる輝点のトラッキングと並進二乗変位(MSD)のImageJによる求め方はこちら

細胞の中に直接、タンパクやプラスミドなどを導入するbeads-loadingのやり方はこちら

走査電子顕微鏡写真画像集(準備中)

卵に精子が結合した時点では卵の表面にあるJUNOはアクロソームを持つ精子のIZUMO1と接した箇所に集合するが(左図, arrow).、次の瞬間、融合に至る直前にそこからJUNOは失われる

IZUMO1の構造再編のモデル

JUNOとの結合が起きると、次にIZUMO1は ジスルフィド結合の掛け替えを伴い、未知の受容体と結合するようになり、膜癒合が起きる

Nature comminucation (2015) 6:8858)

細胞外環境のための蛍光蛋白、cfSGFP2からの光子発生の際に見られるPhoton antibunching
分子が励起された瞬間には量子的制約により一つの光子しか出ない。これは単一分子からの蛍光シグナルを50/50beam splitterを用いて2つに分けて、単一光子検出器(SPAD)で観測したときの光子の発生タイミングを見ることで検出できる。連続光レーザーでは左のように遅れ時間がゼロの瞬間に(=同時)、両検出器の2次の相関は下がり、同じ瞬間にはどちらかの検出器にしか光子が入っていない事がわかる。

適切な励起幅のパルスレーザーを用いると、これは遅れ時間ゼロのピークとして反映される。共焦点空間に2個の蛍光基がある場合は、同じ瞬間に両方の検出器に光子が入る確率が増すので、同時でない瞬間のピークとの比を調べることで、一分子の絶対蛍光基数を知る事ができる(右上は粘性が増しても、中央の低いピークと周囲のピークの比は一定であることを示す)。これは分子の動きなどに寄らず、片方の検出器シグナルの自己相関のように(右下)粘性の影響を受けず、もっとも正確な分子数の測定になる。
配偶子融合を阻害するIZUMO1に対する複数のモノクローナル抗体のエピトープ解析から、種間でよく保存され、かつIZUMO1に特異的な配列である、N末端の融合コア領域を明らかにしました (Inoue N et al Development in press)。この領域はαヘリックス含量が高く、IZUMO1の2量体化を引き起こします。このため、2量体化がIZUMO1の活性化の引き金になると考えましたが、IZUMO1を発現する培養細胞は卵子細胞膜に対する接着能を獲得しますが、膜融合は成立しません (図3)。このことから精子が卵子との膜融合を引き起こすためには、先体反応をきっかけとした、何らかの活性化機構が必要と推測されます。

遺伝子改変動物から得られるデータ (in vivo) と精密構造解析や分子ダイナミクス解析などから得られるデータ (in vitro) を統合して、受精の膜融合の分子機構の全容解明を目指します。


図1 IZUMO1欠損精子
IZUMO1欠損精子は透明帯を通過することができるが、融合が全く起らないため、囲卵腔内に精子が多数存在する。図は先体反応後に精子表面に現れる抗原に対する抗体で染色したもので、全ての精子が先体反応を終えていることが分かる (赤色)。
フィブリン線維に侵入して連鎖球菌を食べるマクロファージ
SNAP-23 regulates phagosome formation and maturation in macrophages
(Mol Biol Cell(2012) 23:4849)



フィブリン塊の中を突き進んで
植え込まれた雑菌(赤)を食べるマクロファージ(緑)。

図2 受精の膜融合のバイオイメージング観察
(A) 精子の頭部は主に3つの領域に分けることができる。
(B) mCherryを付加したRed-IZUMO1が発現する精子では、生きたまま先体内のIZUMO1の挙動の観察が可能である。また先体部にGFPを発現するトランスジェニックマウスの精子では、先体反応後に蛍光が消失する。このマウスと組み合わせることで、GFPを指標に、先体反応の過程が観察できる。
(C) 膜融合が開始すると、卵子にプレロードされていたヘキストが精子頭部に移入する。それと同時に、Equatorial segmentに存在するIZUMO1が消失する (矢頭)。ADAM1Bによって染色されるPostacrosomal region (先体後域:緑色) は、赤道部が完全に消失した後、卵子の細胞膜に吸収されていることが分かる。最終的に先体内膜上に局在するIZUMO1が残存するようになる (アスタリスク)。
Mitochondria in motion
"DsRed2-Mito" (DsRed2 fusion of mitochondrial targeting sequence from subunit VIII of human cytochrome c oxidase) /HeLa, 2D SIM (~1.8sec/frame). 20 x 16 μm



構造化照明を用いた超解像顕微鏡(N-SIM)による画像集 
 
〜回折限界を超えて

小胞体、三叉構造の動き

Lunapark1-cfSGFP2の2D-SIM(2sec/frame
)


HeLa細胞のミトコンドリア(核の縁〜上にかけて)
3D-SIMモード
(実験医学(2012)6: p1380コラム「ミトコンドリアの姿に高解像度で迫る」
および動画
http://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/book/9784758100847/index.html)



熱ストレスをかけた大腸菌(PI染色)内で
inclusion bodyになったGFP(緑)
マクロファージにおける膜融合装置SNAP23(緑)と
リソソーム(LAMPI、赤)

図3 IZUMO1を発現する培養細胞は卵子に接着する
IZUMO1を発現する培養細胞は、卵子の細胞膜特異的に接着能を獲得する。培養細胞ではIZUMO1は細胞膜全体に発現するが、卵子と接着した場合には、その接着面にIZUMO1が集合していることが分かる (赤色)。このことから、卵子への接着の際にIZUMO1のダイナミックな局在変化が起ると考えられる。
GFPを発現する大腸菌のSIM像(バー、1μm)
共焦点顕微鏡による左と同じ視野の像

細胞がものを食べる仕組みは複雑です。食べるときは細胞膜近くだけでなく、小胞体膜の融合装置にも信号が伝わり、細胞全体として膜のバランスを調整していることを報告しました。(Hatsuzawa, K. et al MolBiolCell(2009)20:4435)

←ビーズを食べるマクロファージ   ↑ビーズを取り合うマクロファージ
(走査電子顕微鏡)


iPS細胞の作成(ヒト繊維芽細胞)

空間を埋めるERの動き
(3.3MB)
糖鎖を持つ可溶性タンパクの小胞体内腔での動きは強く拘束されている。図は蛍光相関分光法で見た一分子ダイナミクス。YEssにはN型糖鎖が2個付加されている。カルネキシン欠損細胞(-/-)でも同様であり、カルネキシンはこの挙動には関与しない。
小胞体内1分子(緑)と輸出部位(赤)。中央は左の画像から15ミリ経過した時の像。右は150ミリ秒の像の重ね合わせ。
小胞体内腔から輸送部位に入るカーゴタンパク質1分子の動き(y-t表示)。分泌タンパク(緑)と小胞体の輸送部位(赤)の一分子画像からY軸方向の1画素の画像を抜き出し、時間方向に並べたキモグラフ(緑の輝点が分泌タンパク質1分子、赤は輸送部位。赤い線上にある緑の輝点が輸送部位に入った分子) (J Cell Biol (2008) 180, 129-143)

小胞体内での糖蛋白1分子のmovie(同上)

phagocytosisの極初期において
小胞体SNAREであるsyntaxin18が関与する
Hatsuzawa K et al Mol Biol Cell (2006) 17, 3964-3977
細胞内への抗体導入に伴う
ターゲット分子トラップの
蛍光相関分光法による計測
お問い合わせは…… saibou@fmu.ac.jp 又はiwada@fmu.ac.jp(和田)まで