研究内容
遺伝子多型や遺伝子発現量の測定と分析に関する研究
田中 紀子 教授
- 現在までに様々な遺伝子が様々な疾患に関連することを報告してきました。特に遺伝疫学や分子疫学領域での多変量解析手法の応用や統計学的モデリングを専門とし、まずは競合リスクがある状況でのケース・コントロール研究データで認知症発症の飲酒と年齢の影響を考慮するための対数線形モデルを提案しました(Lancet 2002, J Hum Genet 2003)。
- また、大腸がんの遺伝疫学研究に従事しNurse’s Heath Study およびHealth Professional CohortのデータへCox比例ハザードモデルをあてはめ、大腸がん罹患および予後に関わる要因に関する分析を行い(Mol Can, Gastroenterol, J Patho 2020)、乳がん・大腸がんの分子標的薬剤に対する臨床試験参加者の遺伝子発現や突然変異、miRNA発現データ等から薬効の分子生物学的メカニズムを考慮した治療効果予測モデルを構築しました。Cox回帰分析で非線形交互作用を推定可能とするセミパラメトリックモデルを提案し、その提案した予測モデルによってトラスツズマブやベバシズマブの適用拡大の可能性を報告しました(JNCI, JNCI 2013)。提案した予測モデルは他の研究グループで予測再現性が検証されました(JNCI Spec 2020)。
- 最近ではLPA-KIV2コピー数多型付近にあるSNP(単一塩基対変異)が、がんや循環器疾患と関連がある可能性を報告してきました。(Yamasaki et al., Cancer Epi, 2023)
- LPA-KIV2のように、ゲノム上に存在するコピー数多型のうち、非常に長い領域の繰り返し数の多い多型が存在することが知られています。現在我々はこうした現在のテクノロジーでは簡単に測定することが難しい構造多型の測定法に関する研究を行っています。
疾患要因・癌予後と関連する分子機能の解明
- 癌予後と関連するマーカー分子の開発、その細胞内機能の解明: 癌摘出術後に長い年月を経て組織浸潤と転移等の癌が進展する病態を予測し、予防することは、生命活 動ならびに生理機能を維持する為に重要です。現行の病期分類ならびに予後予測指標を超える、精密な 新規マーカーの開発を目指し、なおかつその生物学的原理の解明と併せて研究を進めています。 本学MDPhDコース医学部生も研究へ参加し論文化へ貢献しました。 (Homma, M.K., et al. Cancer Science 2021, Homma, M.K., et al. Lancet Oncology (Abstract) 2022 )
- 増殖性疾患に関連するリン酸化シグナル変換の包括的解析: 若年性希少疾患である濾胞性肝臓癌(FL-HCC)はプロテインキナーゼA(PKA) 酵素活性部位融合による変 異遺伝子, DNAJB1-PKAC, が原因であると報告されています。そこで遺伝子発現細胞系を用い癌化シグナ ルをリン酸化プロテオミクス手法により解析し、癌化病態と関連するシグナル経路の解明を進めています。 (Kevin, M., et al. Pediatrics 2016)
- プロテインキナーゼを中心とする細胞周期進行シグナル: 家族性大腸腺腫症(FAP)原因遺伝子産物であるAPCタンパクがプロテインキナーゼCK2と相互作用する事、 APCがCK2上流の制御因子であることを見出しました。さらに下流シグナル分子として、特定の増殖時間軸 にCK2が翻訳開始因子をリン酸化する事、正常な細胞周期進行に関与する仕組み等を明らかにしました。 (Homma, M.K., et al. PNAS 2002; Homma, M.K., PNAS 2005, Homma, M.K. Life Science Alliance 2023
ミトコンドリア調節分子機構の解明
小椋 正人 講師
- 細胞性粘菌に由来する新規低分子化合物Ppc-1がミトコンドリア内 エネルギー産生系に作用し、活性酸素種を産生せずにエネルギー産生効率 を下げることを明らかにしました。さらに、Ppc-1誘導体、プレニルオキシキノリ ンカルボン酸(PQA)が神経保護作用や免疫抑制作用等の各種生物活性有 することを見出しました[PCT/JP2013/077937 プレニルオキシキノリンカルボン 酸誘導体] 。これらの誘導体は、シグナル伝達に重要な役割を果 たすキナーゼを標的分子とし、活性を阻害することにより作用を発揮すること を明らかにしました(Ogura et al., Biochemical Pharmacology, 2016 and 2019)。