研究内容|Nishita_Lab

研究内容

研究内容

がんによる死亡原因のほとんどは原発巣から他臓器への転移によるといわれています。がん化した細胞は悪性化することで周囲の組織に浸潤し、リンパ節や遠隔の臓器に転移するようになりますが、それらのプロセスは多様であり、その制御機構もきわめて多岐にわたります。生化学講座では、細胞の接着、極性、移動といった基本的細胞機能の視点からがんの浸潤・転移の分子メカニズムを解明し、新たながんの診断・治療法の開発に貢献することを目指しています。具体的には、以下の内容の研究を進めています。

研究テーマ

がんの進展におけるWntシグナルの機能解析

Wntファミリータンパク質は動物の組織・器官形成やがん化、がんの浸潤・転移など様々な生理的・病理的局面において重要な役割を担う液性因子であり、ヒトでは19種類のメンバーが知られています。私たちはその中の一つWnt5aとその受容体であるRorファミリー受容体型チロシンキナーゼ(Ror1、Ror2)を主軸に研究を進めています。Wnt5aやRorは様々ながんにおいて発現亢進し、がん細胞の増殖や浸潤の促進に関わっています。私たちはがん細胞やがん微小環境におけるWnt5a-Rorシグナルのはたらきを分子レベルで解析し、がん進展におけるその役割の解明に取り組んでいます。

がんの悪性化におけるハイブリッドEMTの役割とその制御メカニズム解明

EMT (Epithelial-to-mesenchymal transition, 上皮間葉転換)は、互いに接着し組織を形成している上皮細胞が、接着を失いより高い運動性をもつ間葉系細胞へと性質を変化させる細胞内プログラムであり、正常なヒトの発生や外傷の治癒などでみられる現象です。EMTはがんの悪性化の過程にも重要な役割を担っており、浸潤部位にあるがん細胞は上皮性を保持しながらも間葉性の性質を獲得した「ハイブリッドEMT」の状態にあることが、近年になって明らかになりました。しかし、ハイブリッドEMTががんの悪性化にどのように寄与するかは未だによくわかっていません。私たちは、マイクロパターニングと呼ばれる微細な表面加工技術を用いた細胞培養手法によって、ハイブリッドEMTの状態にあるがん細胞の運動・極性・接着に関連した特性を解析しています。将来的には、ハイブリッドEMTの制御因子をターゲットとした新たな抗がん剤や腫瘍マーカーの開発につなげたいと考えています。

集団的がん細胞浸潤を司る細胞内および細胞間のシグナリング解析

がん細胞浸潤は、個々のがん細胞がばらばらに単独で浸潤する様式と複数のがん細胞が細胞間接着を維持したまま集団となって浸潤する様式に大別されます。上皮系のがん細胞の多くは集団となって浸潤しますが、EMTが起こるとがん細胞は集団から離脱し単独で浸潤できるようになります。一方、がん細胞は浸潤過程において様々な物理化学的なストレスに曝されますが、集団で存在することによってストレスに対する抵抗性を示し、より効率的に生存・生着できることがわかってきました。私たちは、そのようながん細胞集団の振る舞いを司る細胞内および細胞間のシグナリング機構を明らかにしたいと考えています。

がん細胞浸潤における細胞膜突起形成と核膜変形の制御メカニズム解明

がん細胞浸潤は細胞形態のダイナミックな変化を伴う現象です。例えば、がん細胞は糸状突起や浸潤突起といった細胞膜の突起構造をダイナミックに伸長させたり退縮させたりすることで、細胞外基質を分解しながら周辺組織へと浸潤します。また、糸状突起様構造を介した細胞間コミュニケーションが、多細胞からなるがんの振る舞いを制御していることもわかってきました。一方、がん細胞は細胞膜だけでなく核膜も柔軟に変形させることで、組織内の狭い空間を通って浸潤します。私たちは、そのようながん細胞における細胞膜と核膜のダイナミックな形状変化を担う分子基盤の解明を目指しています。