福島県立医科大学 肝胆膵・移植外科学講座

 

肝臓領域

2017年度において当科の肝切除症例(肝移植症例を除く)は49例でした。疾患の内訳は、肝細胞癌24例(47%)、肝転移性肝癌12例(23%)、肝内胆管癌4例(8%)、肝門部胆管癌4例(8%)、肝血管腫2例(4%)、生体肝移植ドナー2例(4%)、肝内結石症1例です。術式では、肝胆膵外科学会が認定する高度技能手術(区域切除以上の肝切除)は19例で、全体の40%を占めました。手術成績では、主要合併症(Clavian-Dindo分類Ⅲa以上)の発生が4例(8.1%)に認めましたが、手術関連死亡は認めませんでした。

2017年度の肝切除症例において特記すべきは、腹腔鏡下肝切除数がはじめて開腹下肝切除数を上回ったことです。また、2017年年度からは、葉切除及び区域切除(外側区域切除を除く)についても積極的に腹腔鏡手術の対象としており、1年間に9例の切除経験を重ねました。腹腔鏡下肝切除数の増加に伴い、肝切除術後の平均在院日数も短縮し、より低侵襲な医療を実践できているものと自負しております。

当科ではリサーチマインドを備えて外科診療を実践することを目標に、臨床研究を積極的に行っております。肝臓領域で行っている主な臨床研究を紹介いたします。

  • 『ICGを用いた肝切除・肝移植周術期リアルタイム肝機能評価方法の確立に関する臨床研究』では、経皮的吸光度測定の原理で血中ICGをモニタリングすることで、術中および術後の残肝機能を評価し、術後肝不全の発生との関連を探索しています。
  • 『術前MRエラストグラフィーを用いた肝硬度測定の研究』

この研究では、低侵襲なMRIと用いた術前肝線維化診断が術後合併症予測に有用であることを明らかにし、この研究成果が権威ある外科医学雑誌(British journal of surgery)に掲載されました。

 

胆道領域

2017年における当科の胆道系手術症例は55例でした。疾患の内訳は良性疾患32例(58.1%)と悪性疾患23例(41.9%)でした。以下、良性疾患と悪性疾患について記します。

【良性疾患】

内訳は急性胆嚢炎13例(40.6%)、胆嚢胆石症14例(43.8%)、良性胆嚢腫瘍4例 (15.6%)でした。当院における急性胆嚢炎・胆石症手術の患者背景の特徴として、併存症によるハイリスク症例のために他院から紹介となる例が全体の約半数の14例(51.8%)を占めている点にあります。また当院他科に通院患者の院内紹介症例も10例(37.0%)あり、他科と連携した慎重な周術期管理を要しました。癌を否定できないための紹介症例が多いのも1つの特徴と言えます。急性胆嚢炎と診断された13例に対しては臨時手術(初診後2日以内に手術を行った症例)が6例に行われ、準臨時手術(初診後10日以内に手術を行った症例)が4例、待機手術(胆嚢ドレナージ後に退院)が3例でした。胆嚢炎・胆石症症例27例における完全腹腔鏡手術症例は20例(74%)でありました。腹腔鏡から開腹へ移行となった症例はいずれも強い炎症を伴った症例であり、術中合併症のために開腹へ移行した症例はありませんでした。

【悪性疾患】

 胆道悪性腫瘍23例の内訳は乳頭部癌3例(13.0%)、遠位胆管癌8例(34.8%)、肝門部領域胆管癌3例(13.0%)、胆嚢癌7例(30.4%)、分類困難な広範囲胆管癌2例(8.7%)でした。

遠位胆管癌、乳頭部癌の11例に対しては全例において膵頭十二指腸切除術が施行され、肝門部領域胆管癌、広範囲胆管癌の6例に対しては肝切除術4例、膵頭十二指腸切除術1例、肝外胆管切除術1例が行われました。遠位胆管癌および乳頭部癌においては全例において治癒切除がなされておりますが、肝門部領域胆管癌、広範囲胆管癌においては切除可能限界点における肝側胆管断端に癌遺残を認めた症例が1例、粘膜内に異型細胞を認めたものが2例ありました。異型細胞を癌遺残に含めずに集計すると肝門部領域胆管癌および広範囲胆管癌のR0手術率は83.3%という結果でした。胆嚢癌症例においては1例を除き術前より癌と診断されており開腹手術が選択されていました。1例は良性腫瘍との鑑別が困難な症例であったため腹腔鏡手術が行われましたが早期病変であったために追加切除は要しませんでした。

また当科では大学病院およびがん診療連携拠点病院としての機能を果たすべく、基礎研究および臨床研究にも積極的に取り組んでおり以下のものがあります。

【基礎研究】

・スーパーアパタイトナノ粒子法を用いたmiRNAによる胆道癌治療法の開発

胆道がんに対してmiRNによる癌治療をスーパーアパタイトナノ粒子に着目したDrug Delivery System で行おうとする試みを行っております。

【臨床研究】

・胆嚢腫瘍の診断におけるPET-MRIの有用性に関する検討

本邦においてまだ施設導入数の少ないPET-MRIを用いて胆嚢腫瘍の良悪性診断の新規アルゴリズムの開発を行っております。

 

膵臓領域

2017年における当科の膵切除術は35例で、その内訳は膵頭十二指腸切除術が21例、膵体尾部切除術が13例、膵中央切除術が1例でした。膵体尾部切除術の内4例(31%)は腹腔鏡下手術で行われました。疾患別にみてみると、膵癌19例、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)8例、膵神経内分泌腫瘍(PNET)4例、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)2例、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)1例、充実性偽乳頭腫瘍(SPN)1例であり、膵癌、IPMN、PNET症例は増加しています。膵癌症例の増加は、後述する術前化学放射線療法やconversion surgeryの導入による影響と思われます。IPMNやPNETは近年ガイドラインが整備され、分類に応じた手術適応や推奨する術式が提示され、より専門の知識が要求されるようになりました。その影響もあり、近医からの紹介患者も増加傾向にあります。

当科の膵頭十二指腸切除術の成績は、手術時間(中央値)521分、術中出血量(中央値)300ml、術後在院日数(中央値)19日、膵液瘻発生率(Grade B以上)19%でした。膵体尾部切除においては、手術時間(中央値)340分、術中出血量(中央値)200ml、術後在院日数(中央値)12日、膵液瘻発生率(Grade B以上)7.7%でした。

 最近のわれわれの取り組みにおいて特筆すべき点は、膵癌患者における術前化学放射線治療とconversion surgeryの導入です。従来の治療法では、膵癌の5年生存率は約20%であり、十分とは言えませんでした。近年、ハイボリュームセンターを中心に術前化学(放射線)療法が行われ、予後の改善が報告されています。当科でも2016年4月より切除可能膵癌に対し術前化学放射線治療を導入し、良好な成績を示しています。さらに新規化学療法による高い抗腫瘍効果により切除不能膵癌と診断された症例でも化学療法後に切除可能となることがあり(conversion surgery)、当科においても導入しています。これらの取り組みによって膵癌の予後を改善することが、われわれの目標であり、責務と考えています。

 

移植

2017年度は生体肝移植が2例実施されました。疾患の内訳は、自己免疫性肝炎による肝不全1例、胆道閉鎖症術後肝不全1例でした。いずれの症例も術後経過は良好であり、成人移植症例は社会復帰され、小児移植症例は順調な成長を認めています。2017年度に脳死下肝移植および膵腎同時移植は実施されませんでした。