A01神経回路動態制御の基盤技術
小金澤 雅之(東北大学)
「ショウジョウバエ求愛行動の経験依存的指向性シフトの神経基盤の解明」
求愛や攻撃のような個体間コミュニケーションは種の維持に直結する問題である事から、それを実現する神経機構の多くは遺伝的に決定されると考えられている。我々の材料としているショウジョウバエの求愛行動も生得的であり、その実現には転写因子をコードするfruitless(fru)およびdoublesex (dsx) 遺伝子の機能が重要な役割を果たしている。
小坂田 文隆(名古屋大学)
「大脳皮質領野間フィードバック結合の層特異的な機能の解析」
視覚情報は網膜で受容され、外側膝状体(LGN)を経て、大脳皮質1次視覚野(V1)へと伝えられる。その後、V2、V4、MTなどの高次視覚野を含む他の領野へと伝達され、知覚や認知に至る。この視覚情報処理機構は、約50年前にHubelとWieselによってネコの一次視覚野神経細胞の生理学的性質が解明されたことを皮切りに,主にネコやサルなどを用いて解明されてきた。霊長類であるサルは視覚システムがヒトと類似している点では理想的なモデルとも考えられるが、情報処理を担う神経回路メカニズムを解明するには限界があった。これを打開するために、本研究では視覚情報処理の基本原理が保存されており、遺伝学や最新の実験手法が適用可能なマウスをモデルとして用いる。
井上 謙一(京都大学)
「神経回路の選択的可視化と操作を実現するウイルスベクターシステムの開発」
認知機能のネットワーク基盤、あるいは発達や学習に伴う脳内ネットワークの変化様式を解明するために、高度な脳機能を有する霊長類において、神経回路選択的な遺伝子操作を行うことは極めて有用であると考えられます。私達は、これまで福島県立医科大学の小林和人教授との共同研究により、逆行性に感染特異性を持つレンチウイルスベクターを開発し、
貝淵 弘三(名古屋大学)
「リン酸化シグナルに基づいた報酬計神経回路の操作技術開発」
快情動行動や報酬学習の神経基盤として、側坐核と前頭前皮質、扁桃体や海馬などの関連領域で形成される報酬系神経回路が重要な役割を果たしています。側坐核にはドーパミンD1受容体(D1R)を発現する中型有棘神経細胞、ドーパミンD2受容体(D2R)を発現する中型有棘神経細胞、GABAおよびアセチルコリン作動性介在神経細胞が存在し、約90%は中型有棘神経細胞で占められています。
柳川 右千夫(群馬大学)
「遺伝子改変マウスとウイルスによる抑制性ニューロン選択的遺伝子発現システムの確立」
脳は興奮性と抑制性のニューロンから構成されるネットワークの集まりからできている。抑制性ニューロンは、GABAニューロンとグリシンニューロンに大別される。抑制性ニューロンは少数であり、形態も多様なことから、in vitroおよびin vivoで同定するのは困難である。
平田 たつみ(国立遺伝学研究所)
「二次嗅覚並行回路の機能的シフトの研究」
この領域では、最近私が開発した新規回路操作技術「神経細胞誕生日タグ付けシステムシステム」を使って貢献したいと考えています。終末分化状態にある神経細胞にとって、その誕生日、すなわち最終分裂を終えたタイミングは特別な意味を持ちます。
佐々木 拓哉(東京大学)
「行動適応における海馬場所細胞の再生パターンの解析」
海馬のPlace cell(場所細胞)は、自分がいる空間に対応して活動する(2014年ノーベル賞)。しかし、実際の自然界で求められるような、複雑な環境への適応行動とPlace cellの関係は明らかではない。前期までの公募研究にて、複雑な迷路課題の行動成績から、空間記憶学習の一端を発見した(Igata et al., Sci Rep, 2016)。
小山内 実(東北大学)
「qAIM-MRI による大脳皮質-基底核-視床ループの神経回路シフト解析法の確立」
定量的活動依存性マンガン造影 MRI (qAIM-MRI) とは、神経活動に伴い細胞内濃度を変化させる Ca2+ の代わりに、あらかじめ投与しておいた Mn2+ 濃度の変化を MRI で定量的に計測する全脳神経活動イメージング法である。この qAIM-MRI を用いて、パーキンソン病の病態と相関した神経活動の変化を呈する領域を同定することで大脳皮質―基底核-視床ループの機能解明を目指す。
北西 卓磨(大阪市立大学)
「海馬から海馬外への情報出力経路の行動適応」
海馬は場所・時間・情動などさまざまな情報を処理する脳領域だが、こうした多様な情報が海馬の数ある投射先へとどのように分配されて伝達されるかは分かっていない。海馬の情報は「海馬台」という領域を介して5箇所以上の脳領域へと送られる。海馬台の個々の神経細胞は、これらの投射先のうち一部の領域にのみ投射することから、投射先ごとに異なる情報が伝達されることが示唆される。
谷本 拓(東北大学)
「記憶学習において作動する神経回路の遷移」
環境に応じた適応的な行動の発現は、①学習による記憶の獲得、②記憶の保持、③記憶に基づいた行動発現、という異なる素過程から成り立っていると捉えることができる。ショウジョウバエの匂い連合学習はこの3つの異なる素過程に特異的な操作ができるため、これに関わる神経回路の機能的な遷移を明らかにすることが可能である。