A01神経回路動態制御の基盤技術
木下 正治(弘前大学)
「光遺伝学を用いた霊長類の視覚-運動変換系の神経経路選択的な伝達遮断法の確立」
光遺伝学(optogenetics)は光によって高い時間精度でニューロンの活動を亢進または抑制することを可能にする新しい技術です。この技術は脳の特定の神経回路の活動とその機能について単に相関関係でなく、その因果関係を明らかにすることができるという点で多くの神経科学者達が待ち望んできたものです。
小金澤 雅之(東北大学)
「ショウジョウバエ求愛行動の経験依存的指向性シフトの神経基盤の解明」
求愛や攻撃のような個体間コミュニケーションは種の維持に直結する問題である事から、それを実現する神経機構の多くは遺伝的に決定されると考えられている。我々の材料としているショウジョウバエの求愛行動も生得的であり、その実現には転写制御因子をコードするfruitless(fru)遺伝子の機能が決定的な役割を果たしている。
柳川 右千夫(群馬大学)
「遺伝子改変マウスとウイルスによる抑制性ニューロン選択的遺伝子発現システムの構築」
脳は興奮性と抑制性のニューロンから構成されるネットワークの集まりからできている。抑制性ニューロンは、GABAニューロンとグリシンニューロンに大別される。抑制性ニューロンは少数であり、形態も多様なことから、in vitroおよびin vivoで同定するのは困難である。
佐々木 拓哉(東京大学)
「行動適応における海馬場所細胞の再生パターンの解析」
海馬の錐体細胞は、動物が特定の空間に存在するときに活動を示す「場所細胞(place cell)」であり、脳の空間表象の中心的役割を担うと考えられている(本細胞の発見は2014年のノーベル医学・生理学賞の対象となった)。海馬では、時折、シャープウェーブリップル波とよばれる神経細胞の大規模な同期活動が発生する。
櫻井 武(筑波大学)
「行動適応にかかわる覚醒システムの機能解明」
感覚情報は大脳皮質で認知されると同時に大脳辺縁系で処理され、視床下部や脳幹を介して動物の行動を変容させる。覚醒系に関連の深いオレキシン作動性ニューロンは、視床下部外側野に局在し、モチベーションの必要な行動をとるときや、強い情動をともなうキューによって興奮することが明らかになっており、
小坂田 文隆(名古屋大学)
「大脳皮質領野間フィードバック結合の層特異的な機能の解析」
視覚情報は網膜で受容され、外側膝状体(LGN)を経て、大脳皮質1次視覚野(V1)へと伝えられる。その後、V2、V3、V4、V5などの高次視覚野を含む他の領野へと伝達され、知覚や認知に至る。この視覚情報処理機構は、約50年前にHubelとWieselによってネコの一次視覚野神経細胞の生理学的性質が解明されたことを皮切りに,主にネコやサルなどを用いて解明されてきた。
日置 寛之(京都大学)
「回路シフトの制御・可視化・構造解析の効率化に向けた基盤技術の開発」
中枢神経系は認知・思考・記憶・感情といった高次機能を実現していますが、その作動原理は未だ謎のままです。高次機能を実現する素子・構成単位として、神経細胞を想定することは妥当でしょう。しかし神経細胞一つ当たりの情報処理速度は高々1KHz程度が限界であり、神経細胞が構成するネットワークにこそ、高次機能を生み出す原理があると考えられます。
井上 謙一(京都大学)
「神経回路の選択的可視化と操作を実現するウイルスベクターシステムの開発」
認知機能のネットワーク基盤、あるいは発達や学習に伴う脳内ネットワークの変化様式を解明するために、高度な脳機能を有する霊長類において、神経回路選択的な遺伝子操作を行うことは極めて有用であると考えられます。私達は、これまで福島県立医科大学の小林和人教授との共同研究により、逆行性に感染特異性を持つレンチウイルスベクターを開発し、
平田 たつみ(国立遺伝学研究所)
「二次嗅覚並行回路の機能的シフトの研究」
この領域では、最近私が開発した新規回路操作技術「神経細胞誕生日タグ付けシステムシステム」を使って何か貢献できれば、と考えています。終末分化状態にある神経細胞にとって、その誕生日、すなわち最終分裂を終えたタイミングは特別な意味を持ちます。