公募研究

佐野 裕美(生理学研究所)

「大脳基底核変性疾患における回路変動と不随意運動出現の因果関係」

パーキンソン病、ハンチントン病、ジストニアといった神経疾患で起こる運動異常は、大脳基底核の障害により生じることが知られています。大脳基底核には、直接路・間接路・ハイパー直接路と呼ばれる3つの経路があり、大脳皮質からの指令はこの3つの経路を通って大脳基底核の出力部である黒質網様部/淡蒼球内節に伝えられ、運動が制御されると考えられています。

私の所属する研究室では、大脳基底核による運動の調節機構を調べるため、大脳基底核や大脳基底核と連絡する脳領域において神経の活動を記録し、神経活動と運動との関係を調べています。大脳基底核が障害された際に、どのように神経活動が変化して症状が発現するのか病態生理を解明することは、治療法の確立のためにも非常に重要です。

大脳基底核の代表的な疾患であるパーキンソン病は中脳の黒質緻密部にあるドーパミンニューロンの変性に起因する神経変性疾患で、無動、寡動、筋強剛などの症状が認められます。治療にはドーパミンを補うようにドーパミンの前駆体であるL-DOPAの投与が広く使われており、運動障害が回復します。ところが、L-DOPAを長期間服用すると、ジスキネジアと呼ばれる不随意運動が出現します。この不随意運動の出現は長期間のL-DOPA投与により大脳基底核の回路動態が変化し、機能シフトが生じた結果だと考えられます。

そこで、この研究では、薬剤を用いて作出したパーキンソン病モデルマウスにL-DOPAを投与して不随意運動を誘発し、不随意運動が出現する前後での大脳基底核の神経活動を記録し、比較します。一方で、トランスジェニックマウスあるいはウイルスベクターを用いて光遺伝学を利用し、大脳基底核を構成する神経経路の活動を操作し、不随意運動が出現しているときと同様の神経活動を誘導します。このとき、不随意運動が出現するのかどうかを検証します。さらに、L-DOPAを投与して不随意運動を誘発したパーキンソン病モデルマウスにおいて、光遺伝学を利用して神経回路の動態変化を元に戻したとき
に、不随意運動が消失するのかどうかを検証します。これらの実験から、L-DOPA投与で変化した神経活動と不随意運動の因果関係の解明に迫ります。

 

 
最近の主要論文
1. Sano H, Murata M, Nambu A (2015) Zonisamide reduces nigrostriatal dopaminergic neurodegeneration in a mouse genetic model of Parkinson’s disease. J Neurochem 134(2):371-81.
2. Sano H, Chiken S, Hikida T, Kobayashi K, Nambu A (2013) Signals through the striatopallidal indirect pathway stop movements by phasic excitation in the substantia nigra. J Neurosci. 33(17):7583-94.
3. Bepari AK, Sano H, Tamamaki N, Nambu A, Tanaka KF, Takebayashi H (2012) Identification of optogenetically activated striatal medium spiny neurons by Npas4 expression. PLoS One 7(12):e52783.
4. Tanaka KF, Matsui K, Sasaki T, Sano H, Sugio S, Fan K, Hen R, Nakai J, Yanagawa Y, Hasuwa H, Okabe M, Deisseroth K, Ikenaka K, Yamanaka A (2012) Expanding the repertoire of optogenetically targeted cells with an enhanced gene expression system. Cell Rep 2(2):397-406.

投稿日:2015年12月20日