公募研究

武内 恒成(愛知医科大学)

「脳脊髄損傷後再生における神経回路再編の動態解析-細胞外環境制御とウイルス導入系-」

中枢神経系の発生や再生過程においては、神経回路の編成や再編成は、神経細胞に存在する細胞接着分子と細胞外基質の相互作用によって制御されています。特に細胞外基質においては、様々なタンパク質分子だけではなく多くの糖鎖構造が機能を担っており、神経回路形成と回路の機能成熟過程にコンドロイチン硫酸(CS)およびヘパラン硫酸(HS)プロテオグリカンなどが示す重要性も注目されている。また、脊髄損傷をはじめ中枢神経系が障害を受けた場合には、CSが大量発現して神経の再生阻害因子として機能します。つまり発生過程とは逆の側面を示し再生後治療を困難なものとしています。神経再生医療のためには、これら糖鎖発現の制御も重要なテーマとなるわけです。我々は、CSの発現制御を行うことによって、脊髄損傷後マウスが劇的な機能回復と神経再生能を持つことを見出しました。さらに、CSとその受容体接着分子が発生過程における神経細胞移動や細胞極性決定に関わることも解析を継続しています。 そこで、これら糖鎖および接着分子の発現制御を駆使して神経再生治療へ生かすこと、さらにはその過程で神経回路編成がいかに行われているか、を技術開発も進めながら理解を深めてゆくことを目標としています。神経回路の障害後再生時に、脊髄においてはいかなる経路から回復を示すか、そのトリガーは神経軸索再生によるか神経発芽によるものか、そのとき細胞外基質の糖鎖構造はどのような影響を及ぼしているかを探ってゆきます。我々はすでに、糖鎖発現レベルを遺伝子ノックアウト技術および組織部位特異的遺伝子ノックダウン技術(図1)を駆使することによって制御することを可能としています。損傷後再生回復能を段階的に操作できるため、回路再編成過程を修復能の段階と時間軸による継続的解析から詳細に解析してゆきます。具体的には、領域代表の小林和人先生と連携でウイルスベクターを用いた経路選択的なトレースによって、特に神経再編成時のメカニズムをトレーシング解析する技術開発も進めます。またその技術を通して、再生の定量的解析だけではなく治療応用への可能性も探りたいと考えています。 さらには、脊髄回路のみならず脳内における回路再生と回路柔軟性を解析するために、線条体神経回路における神経再生実験と経路別機能特性の解明も手がけます。RNAガイド遺伝子操作原理にもとづく回路操作の新しい技術の開発も手がけ、レンチウイルスベクターを介したRNA干渉による標的遺伝子ノックダウン誘導やCRISPR/CAS9システムによる遺伝子ターゲティング技術を神経回路再編成解析に持ち込むことを計画しています。神経再生における回路再編の解明、および、とくに脊髄損傷治療および中枢神経系損傷後の回復治療へつながる研究へ展開したいと考えています。

 

 
最近の主要論文
1. Takeuchi K., Yoshioka N., Higa S., Watanabe Y., Miyata S., Wada Y., Kudo C., Okada M.., Ohko K., Oda K., Sato T., Yokoyama M., Matsushita N., Nakamura M., Okano H., Sakimura K., Kawano H., Kitagawa H. and Igarashi M. (2013) Chondroitin sulphate N-acetylgalactosaminyltransferase-1 inhibits recovery from neural injury. Nature Communication  4 : 2740  (2013)
2. Okamoto M., Namba T., Shinoda T., Kondo T., Watanabe T., Inoue Y., Takeuchi K., Enomono Y.,Ota K., Oda K., Wada Y., Sagou K., Saito K., Sakakibara A., Kawaguchi A., Nakajima K., Fujimori T., Ueda M., Hayashi S., Kaibuchi K. and Miyata T. (2013) TAG-1-assisted progenitor elongation streamlines nuclear migration to optimize subapical crowding. Nature Neuroscience 16 : 1556-1566
3. Namba T., Kibe Y., Funahashi Y., Nakamuta S., Takano T., Ueno T., Shimada A., Kozawa S., Okamoto M., Shimoda Y., Oda K., Wada Y., Masuda T., Sakakibara A., Igarashi M., Miyata T., Faivre-Sarrailh C., Takeuchi K. and Kaibuchi K. (2014) Pioneering Axons Regulate Neuronal Polarization in the Developing Cerebral Cortex. Neuron  81: 814-829

投稿日:2015年12月20日