公募研究

玉巻 伸章(熊本大学)

「大脳新皮質神経細胞の脱落に伴って起きる神経細胞の新生現象の解明」

昨今、再生医療の発展により、人の様々な臓器の機能を回復できる未来が見え来ました。しかし脳機能の維持、回復を図る治療法も同時に実現できなければ、増える高齢者の介護の為に、多くの働き手の時間が占有されてしまい、日本社会が麻痺しかねません。

そのような中、私達は、大脳新皮質の脳室帯から生まれた興奮性と抑制性それぞれの神経前駆細胞の一部は、放射方向に移動して脳軟膜を貫き、軟髄膜のpia-progenitorに成ることを発見しました。軟髄膜のpia-progenitorは、脳に異常が生じた際に大脳新皮質外表面で増殖し、再び軟膜を貫いて大脳新皮質に入り、興奮性又は抑制性の新皮質神経細胞になります(Neuro2013 にて発表)。軟髄膜のpia-progenitor を刺激して神経細胞を新生させるには、pia-progenitorの細胞増殖因子受容体の情報が必要となりますが、私共がこれまでに蓄積してきた胎児期の脳室下帯に分布する神経前駆細胞の遺伝子プロファイルを、そのまま使用することができることも分かりました。さらに人癲癇患者の脳脊髄液(CSF)を調べると、pia-progenitor の増殖因子が見つかるので、マウスの実験で観察された神経細胞新生現象を、人でも再現できる可能性が見えて来ました。本研究では、CSF中の細胞増殖因子をどのように調整すればpia-progenitorによる神経細胞新生現象を高め、傷害を受けた大脳新皮質の神経細胞数を増やし、脳機能を回復させることができるかを研究しております。

 

図:軟膜中に見つかるpiaprogenitorは、新皮質の錐体細胞と抑制性神経細胞が分泌する細胞増殖因子で増殖し、神経細胞に分化します。

 
最近の主要論文
1. Yamaguchi M, Seki T, Imayoshi I, Tamamaki N, Hayashi Y, Tatebayashi Y, Hitoshi S. (2015) Neural stem cells and neuro/gliogenesis in the central nervous system: understanding the structural and functional plasticity of the developing, mature, and diseased brain. J Physiol Sci 2015 Nov 17.
2. Huang J, Chen J, Wang W, Wei YY, Cai GH, Tamamaki N, Li YQ, Wu SX. (2013) Birthdate study of GABAergic neurons in the lumbar spinal cord of the glutamic acid decarboxylase 67-green fluorescent protein knock-in mouse. Front Neuroanat 9:7:42.
3. Ninomiya S, Esumi S, Ohta K, Fukuda T, Ito T, Imayoshi I, Kageyama R, Ikeda T, Itohara S,Tamamaki N. (2013) Amygdala kindling induces nestin expression in the leptomeninges of the neocortex. Neurosci Res 75(2):121-9.

投稿日:2015年12月20日