公募研究

山中 章弘(名古屋大学)

「オレキシン神経脱落による機能シフトが情動脱力発作を引き起こすメカニズム解明」

これまでの研究は、光遺伝学(オプトジェネティクス)や、薬理遺伝学(ファーマコジェネティクス)を用いて、特定の種類の神経活動だけを操作することまたは、特定の神経細胞の運命を制御をおこない、その結果として生じる個体レベルでの変化を解析することで、神経回路機能を明らかにする研究を行ってきている。特に、摂食行動、飲水行動、性行動、睡眠覚醒などの本能行動を制御する視床下部神経細胞の役割について中心に解析してきた。本領域の研究では、主に視床下部に存在する神経ペプチド「オレキシン」を産生する神経(オレキシン神経)の回路機能を解析する。睡眠障害のひとつである「ナルコレプシー」は、思春期頃に好発し、オレキシン神経が免疫系の細胞によって攻撃されて特異的に脱落することによって発症することが判明している。ナルコレプシーの症状は、いかなる状況でも眠ってしまうなどの睡眠覚醒調節の異常だけでなく、笑ったり喜んだりした(ポジティブな)情動変化に伴う脱力発作(情動脱力発作)が特徴的である。また、肥満傾向を示すなど代謝調節異常も認められる。私たちはTet-offシステムを用いてオレキシン神経細胞だけを任意の時期に任意の数だけ脱落させることが可能な、新しいナルコレプシーモデルマウスの作出に成功した(Tabuchi et al., J Neurosci 2014; Black et al., J Neurosci 2014)。このマウスは、全ての神経回路網が出来上がった後に、オレキシン神経だけを脱落させることができるため、思春期に発症するヒトのナルコレプシーの症状をほぼ再現可能である。本研究では、この新しいモデルマウスを用いて、オレキシン神経細胞だけを脱落させることで神経回路の機能シフトを生じさせ、ポジティブな情動変化により脱力発作が生じる仕組みについて神経回路レベルにおいて明らかにすることを目的としている。

 

 
最近の主用論文
1. Tabuchi S, Tsunematsu T, Black SW, Tominaga M, Maruyama M, Takagi K, Minokoshi Y, Sakurai T, Kilduff TS, Yamanaka A (2014) Conditional ablation of orexin/hypocretin neurons: a new
mouse model for the study of narcolepsy and orexin system function. J Neurosci 34:6495-6509.
2. Tsunematsu T, Ueno T, Tabuchi S, Inutsuka A, Tanaka KF, Hasuwa H, Kilduff TS, Terao A, Yamanaka A (2014) Optogenetic manipulation of activity and temporally controlled cell-specific ablation reveal a role for MCH neurons in sleep/wake regulation. J Neurosci 34:6896-6909.
3. Inutsuka A, Inui A, Tabuchi S, Tsunematsu T, Lazarus M, Yamanaka A (2014) Concurrent and robust regulation of feeding behaviors and metabolism by orexin neurons. Neuropharmacology 85:451-460.

投稿日:2015年12月20日