公募研究

吉村 由美子(自然科学研究機構)

「知覚学習の大脳皮質神経回路基盤」

外界の環境に適応するために、感覚機能は経験に依存して柔軟に調節される。例えば、特定の感覚刺激を繰り返し学習すると、その刺激に対する知覚機能が向上することが知られている。この機能向上は、大脳皮質感覚関連領野における神経活動の変化や神経回路シフトを基盤として成立すると考えられるが、どのような変化によるかは不明な点が多い。

我々はこれまでに、マウスやラットが特定の方位刺激を用いた視覚弁別課題を繰り返し行うことにより、トレーニングに用いた方位を知覚する能力が選択的に向上することを確認している。そこで本課題では、この弁別課題学習を利用して、知覚能力向上の過程でみられる大脳皮質の神経活動・神経回路の変化を同一個体で特定し、知覚学習成立の神経基盤を明らかにすることを目的とする。具体的には、マウスが視覚弁別課題を学習する前・後で、スパイク多チャンネル記録や2光子励起顕微鏡を用いたCa2+イメージングを行い、大脳皮質一次視覚野と高次視覚野の視覚反応を記録する。個々の細胞の視覚反応と弁別成績とを対応付けることにより、学習に伴い変化する皮質領野を同定し、その領野の神経の視覚反応性の変化を見出す。更に、神経活動に依存して蛍光蛋白を発現する遺伝子改変マウスを利用してトレーニング刺激に反応した細胞群を蛍光ラベルし、その視覚野から作製した切片標本を用いてその神経回路を解析することで、トレーニング刺激に対する知覚能力の向上に伴い、強化あるいは弱化した神経回路を同定する。視覚機能向上の過程で起こる神経活動や神経回路の変化を、細胞レベルで抽出することにより、感覚機能の向上を担う神経回路基盤を明らかにする。多チャンネルシリコンプローブによるスパイク活動記録は礒村グループの支援をいただき、高い精度で行う。また、上述の解析により見出された機能向上に関わる神経回路を、小林・伊佐グループの支援により、選択的に阻害し、その影響を調べることで、知覚向上を担う神経回路を因果的に明らかにすることを目指す。その成果により、視覚機能向上のメカニズムのみならず、大脳皮質で全般的にみられる学習機構の理解に貢献できると期待される。

 

 
最近の主要論文
1. Ishikawa, A.W., Komatsu, Y. & Yoshimura, Y. Experience-dependent emergence of fine-scale networks in visual cortex. J Neurosci. 34, 12576-86 (2014)
2. Horibe, S., Tarusawa, E., Komatsu, Y. & Yoshimura, Y. Ni2+-sensitive T-type Ca2+ channel currents are regulated in parallel with synaptic and visual response plasticity in visual cortex. Neurosci Res., 87, 33-39 (2014)
3. Yoshimura, Y., Danzker, J.L.M., & Callaway, E.M. Excitatory cortical neurons form fine-scale functional networks. Nature 433, 868-873 (2005)

投稿日:2015年12月20日