公募研究

川口 泰雄(自然科学研究機構生理学研究所)

「前頭皮質の動的経路変更機構」

新皮質回路構築の理解には多様な領野を超えた共通構築原理だけでなく、領野固有の機能を生み出す上で必要と考えられるニューロン分化則・結合則も明らかにする必要があります。一次感覚野では多くの研究者が解析してきましたが、前頭皮質の局所回路の解析はまだ多くありません。高次前頭皮質の主要な出力部位には大脳基底核の線条体や、一次運動野があります。基底核は行動選択などの意思決定に重要な働きを担っており、その作動様式についてはいくつかのモデルが既に提案されています。ニューロン構成やシナプス結合についての詳細な解剖学的知見の蓄積がこれを可能にしました。私たちは、ラット前頭皮質の錐体細胞の分類を、逆行性標識法・細胞内染色法を使って、外部投射先・樹状突起形態・生理的性質の違いに基づいて示しました。その過程で、第5層の線条体投射ニューロンが、多様であること、そのサブタイプによってシナプス結合の伝達特性・選択性が大きく異なることを見いだしました。線条体への投射系の機能的多様化の意義を理解することは、前頭皮質の働きだけでなく、基底核モデルの不十分さを克服することに役立つ事を期待しています。前頭皮質領野の下流にある線条体と一次運動野への直接投射は、どちらも複数の経路から構成されています。また、新皮質にはGABA作動性の抑制性細胞もあり、錐体細胞と同じように、これらも機能的に多様なサブタイプから構成されていると考えられています。そこで本研究での一つ目標は、線条体への複数の経路のバランスがどのように調節されているかを理解するために、経路依存的な抑制性回路を脳切片標本でのホールセル記録で探索することです。一方、一次運動野への投射は主に1層や2/3層上部を神経支配します。そこで、もう一つの目標は、この皮質間投射終末部位のスパインやシナプスの微細構造や、その変化を定量化し解析することです。同一神経要素の蛍光像と電顕像をシームレスに対応させ解析を進める手法を連携研究者(窪田)と確立する予定です。これらを通して、皮質出力の細胞体や終末における経路シフトの仕組みの理解に貢献できればと考えています。

 

 
最近の主要論文
1. Otsuka T, Kawaguchi Y (2013) Common excitatory synaptic inputs to electrically connected cortical fast-spiking cell networks. J Neurophysiol 110: 795–806.
2. Ueta Y, Hirai Y, Otsuka T, Kawaguchi Y (2013) Direction- and distance-dependent interareal connectivity of pyramidal cell subpopulations in the rat frontal cortex. Front Neural Circuits
7:164
3. Morita K, Kawaguchi Y (2015) Computing reward prediction error: an integrated account of cortical timing and basal-ganglia pathways for appetitive and aversive learning. Eur J Neurosci 42: 2003–2021

投稿日:2015年12月20日