公募研究

榎本 和生(東京大学)

「モノアミン作動性ニューロンによる嗅覚嗜好性制御機構の解明」

完全変態動物であるショウジョウバエは、幼虫から蛹、成虫へと5日間で変態する過程において、光、温度、食物など様々な外部感覚情報に対する嗜好性が大きく変化します。このような嗜好性スイッチは、変態期間におきる脳神経回路の機能シフトに依存すると考えられますが、その具体的な神経基盤はほとんど理解されていません。これまでに私たちは、幼虫の脳内ニューロン中で、10個以内の特定ニューロン群だけを再現性よく標識・操作できるトランスジェニック個体を約200系統樹立しました。つまり、私どもが樹立したコレクションにより、脳内約2,000個(脳内全ニューロンの約20%にあたる)のニューロンを5~10個ずつの小グループに分けて個別に操作することが可能となりました。次に、このシステムを使って、嗅覚物質に対する嗜好性スイッチを担うニューロン群を検索し、脳内の片半球あたり2つのドーパミン作動性ニューロン(以下DAニューロンと略)を同定しました。さらに、オクトパミン(高等動物ノルアドレナリンの機能的・構造的な相同物質)作動性ニューロン(以下OAニューロンと略)を不活化すると、ショウジョウバエ幼虫の嗅覚嗜好性そのものが完全に消失することを発見しました。従って、ショウジョウバエ幼虫の嗅覚嗜好性制御においては、異なるモノアミン作動性ニューロンが協調的に働くことにより、嗅覚情報に付加される価値情報を可逆的に制御している可能性が考えられます。本研究では、ショウジョウバエ幼虫の嗅覚嗜好性制御に関わるモノアミン作動性ニューロン群に着目し、異なるモノアミン作動性ニューロンの相互作用により嗜好性が規定されるメカニズムを回路レベルで明らかにすることを目指します。

 

 
最近の主要論文
1. Yasunaga K, Tezuka A, Ishikawa N, Dairyo Y, Togashi K, Koizumi H and Emoto K (2015) Adult Drosophila sensory neurons specify dendrite boundaries independent of dendritic contact
through the Wnt5-Drl signaling pathway. Genes Dev 29: 1763-1775.
2. Kanamori T, Yoshino J, Yasunaga K, Dairyo Y and Emoto K (2015) Local endocytosis triggers dendrite thinning and pruning in Drosophila sensory neurons. Nature Communications 6: 6515.
3. Kanamori T, Kanai M, Dairyo Y, Yasunaga K, Morikawa R and Emoto K (2013) Compartmentalized calcium transients trigger dendrite pruning in Drosophila sensory neurons. Science 340: 1475- 1478.
4. Morikawa R, Kanamori T, Yasunaga K and Emoto K (2011) Different levels of the TRIM protein Asap regulate distinct axonal projections in Drosophila sensory neurons. Proc Natl Acad Sci USA
108: 19389-19394.

投稿日:2015年12月20日