公募研究

八尾 寛(東北大学)

「発達期神経回路再編成の定量コネクトミクス解析」

発達期の中枢・末梢神経系では、一時的に過剰に形成されたシナプスが間引かれていくことで回路が再編される。シナプス除去と呼ばれるこの現象は、同じ標的細胞に投射する複数のシナプス間の活動依存的な競合によって生じ、これによって不要な接続が除去されて必要な接続が選択的に強化されることで、機能的に成熟した神経回路が作られていくと考えられている。しかし、この軸索間競合によって回路全体がどのように再編されるのか、またそれがどのようなメカニズムで制御されているのか、ほとんど理解が進んでいない。

ニワトリ胚毛様体神経節シナプスは、発達期シナプスのモデルとして長年研究に用いられており、多くの生理学的・形態学的知見が蓄積している(Yawo & Chuhma, Nature, 1993)。毛様体神経節のシナプス前細胞は中脳Edinger-Westphal核から軸索を伸ばして標的である毛様体ニューロンに投射している。われわれは、in ovoエレクトロポレーション法によるシナプス前細胞特異的な遺伝子導入法を確立した(Egawa et al., PloS One, 2013)。さらに、まばら発現システムや組織透明化などの最先端技術を総合し、神経節内の軸索投射の形態発達の全体像を定量的に明らかにする方法論(定
量コネクトミクス解析法)を開発した。その結果、8日胚(E8)では一つの毛様体ニューロンに対して多数のブートン状シナプスが形成されているが、E9-10にブートン状シナプスからカリックスへの発達が始まり、その後E11-12からカリックスを持たない軸索側枝が刈り込まれることで、E14までに分枝がなくカリックスを1つだけ持った単一の形態パターンに収束していくことを見出した【図】。すなわち、分枝は各軸索間で均質に刈り込まれ、プレとポストがほぼ完全な1対1の接続となる。14日胚(E14)では1つの巨大な杯状シナプス(カリックス)が形成されるようになり、この過程においてシナプス除去が生じている。このように均質なネットワークの形成は、従来の競合ルールのみでは説明不可能である。本研究においては、数理モデルに基づいて、未知のルールを仮説するとともに、ルールの基盤となるメカニズムを分子レベルで解明することを目的とする。

以上の研究と並行し、オプトジェネティクスについて、分子から個体レベルの基盤研究を推進し、領域研究に貢献する。

 

 
最近の主要論文
1. Egawa, R., et al. (2013) Optogenetic probing and manipulation of the calyx-type presynaptic terminal in the embryonic chick ciliary ganglion. PLoS One 8, e59179.
2. Yawo, H., et al. (2013) Optogenetic manipulation of neural and non-neural functions. Dev Growth Differ. 55(4):474-490. (Review)
3. Yawo, H., Kandori, H. & Koizumi, A. (editors) “Optogenetics: Light-Sensing Proteins and Their Applications”, Springer, Tokyo (2015). (Book)
4. Hososhima, S., et al. (2015) Near-infrared (NIR) up-conversion optogenetics. Sci Rep 5, 16533.

投稿日:2015年12月20日