公募研究

佐々木 拓哉(東京大学)

「行動適応における海馬場所細胞の再生パターンの解析」

海馬の錐体細胞は、動物が特定の空間に存在するときに活動を示す「場所細胞(place cell)」であり、脳の空間表象の中心的役割を担うと考えられている(本細胞の発見は2014年のノーベル医学・生理学賞の対象となった)。海馬では、時折、シャープウェーブリップル波とよばれる神経細胞の大規模な同期活動が発生する。近年の研究では、こうした同期活動パターンには、自分の現在位置を担当する場所細胞以外にも、多数の神経細胞の活動が同時に含まれることが明らかになっている。こうした同期活動中の神経細胞が担当する場所受容野を解析すると、特定のシークエンス様活動が見出され、これらの軌跡は、過去に動物が行動した空間(逆行性再生)および将来に動物が行動する空間(順行性再生)に一致する。この現象は、将来の行動戦略の設計や予測に関与すると推測されるが、未だに機能的意義に関する知見は少ない。この理由の1つとして、従来の計測技術では細胞サンプル数が不十分であったことが挙げられる。こうした活動再生パターンの研究では、細胞数が多いほど、多様な受容野を有する場所細胞が得られるため、より正確な解析が可能となる。そこで本研究では、数十から数百個の海馬神経細胞を同時記録するマルチユニット計測の構築に挑む。目標としてはテトロード電極10-24本程度の同時記録を目指す。動物に特定の迷路課題を学習させ、学習後に経路を遮断したり、ストレス刺激を加えるなど、外部環境の変化を与える。このように、認知地図の変更が要求された際に、動物に生じる行動適応と場所細胞の再生活動を解析する。具体的には、(1)既存の経路が変化した場合、適応行動と海馬で再生される軌跡の間には、どのような関連があるか?(2)新しい経路の学習過程と、再生頻度にはどのような関連があるか?(3)オフライン期に生じる記憶の再生にはどのような変化が起こるか?という点に着目する。こうした研究を通じて、本新学術領域研究のテーマである行動適応を担う脳神経回路の実態解明を目指す。

 

 

最近の主要論文
1. Sasaki T, Leutgeb S, Leutgeb JK (2015) Spatial and memory circuits in the medial entorhinal cortex. Curr Opin Neurobiol 32:16-23.
2. Sasaki T, Beppu K, Tanaka KF, Fukazawa Y, Shigemoto R, Matsui K (2012) Application of an optogenetic byway for perturbing neuronal activity via glial photostimulation. Proc Natl Acad Sci USA 109:20720-20725.
3. Sasaki T, Matsuki N, Ikegaya Y (2012) Targeted axon-attached recording with fl uorescent patch-clamp pipettes in brain slices. Nat Protoc 7:1228-1234.
4. Sasaki T, Matsuki N, Ikegaya Y (2011) Action potential modulation during axonal conduction. Science, 331:599-601.

投稿日:2015年12月20日