公募研究

上野 将紀(新潟大学)

「脳障害後の神経回路再編促進モデルによる回路シフトの解析」

 脳や脊髄の障害により神経回路が破綻すると、重篤な機能不全を引き起こします。一度障害された機能は、その後、自然回復あるいは増悪するなど変容していくことが知られますが、その要因の1つとして、障害後に残存した回路の再編が寄与することが示されてきました。

 実際、私たちはこれまでに、運動回路や自律神経回路を例に、障害後に残存した回路が限定的ではありながら接続様式を変化させ、機能の変容をもたらすことを見出してきました。巧緻運動を司る皮質脊髄路は、脳外傷後に再編して運動機能の自然回復へ寄与していました(Ueno et al., Brain 2012)。一方で、免疫系を制御する交感神経回路は、脊髄損傷後に再編し、免疫機能の低下をもたらします(Ueno et al., Nat Neurosci 2016)。これら成果から、成体脳においても回路が変化しうることがわかってきましたが、機能を回復へと導く精緻な回路の形成を十分に誘導する方法は未だ見出されていません。特に、機能を健常状態近くへと回復するには、残存した回路を“質・量”ともに変化させ、回路再編の一端を担う神経軸索が十分に伸長し(“量”)、かつ適切な領域へ投射し標的神経細胞と接続する(“質”)必要があります。

 成体脳において、神経軸索の伸長が起こりにくい要因として、1)周囲環境に存在する軸索伸長阻害因子(外的要因)、2)軸索伸長を促す神経細胞内シグナルの枯渇(内的要因)、が存在することが明らかにされています。したがって、これら2要因を同時に取り払えば、神経回路の再編を大幅に亢進できる可能性が考えられます。

 本研究では、この2大要因を取り払い神経軸索の伸長能力を最大限に引き出す遺伝子改変マウスを用いることで、脳障害後に起こる運動回路の再編を大幅に亢進するモデルの開発に挑みます。分子的な修飾により回路再編の亢進をもたらすか(“量”)、またその場合、適切な回路を形成し機能回復を亢進するか(“質”)を検証します。

 

 
最近の主要論文
1. Ueno M, Ueno-Nakamura Y, Niehaus J, Popovich PG, Yoshida Y (2016) Silencing spinal interneurons inhibits immune suppressive autonomic reflexes caused by spinal cord injury. Nat Neurosci 19:784-787.

2. Ueno M, Fujita Y, Tanaka T, Nakamura Y, Kikuta J, Ishii M, Yamashita T (2013) Layer V cortical neurons require microglial support for survival during postnatal development. Nat Neurosci 16:543-551.

3. Ueno M, Hayano Y, Nakagawa, H, Yamashita T (2012) Intraspinal rewiring of the corticospinal tract requires target-derived BDNF and compensates lost function after brain injury. Brain 135:1253-1267.

投稿日:2017年05月12日