公募研究

船戸 弘正(東邦大学)

「新規睡眠制御遺伝子SIK3による視索前野を介した本能行動制御機構の解明」

睡眠は、広範囲の動物種で認められる普遍的な行動であり、われわれの心身の健康に不可欠な要素であるにもかかわらず、その機能や制御機構は明らかではない。われわれは睡眠の謎を解くために、ランダムに遺伝子変異が導入されたマウスおよびその次世代マウスの睡眠覚醒を調べた。優性遺伝により顕著な睡眠時間の延長を示すSleepy変異家系を樹立し、全エクソームシーケンスや連鎖解析により、Sleepy変異マウスはSik3遺伝子に一塩基変異を持つことが明らかとなった。さらに、同定したSik3遺伝子変異を導入することにより、睡眠時間の延長を生じたことから、Sik3遺伝子変異の睡眠時間延長における因果性を証明することができた(Funato et al Nature 2017)。Sik3遺伝子は、AMPKファミリーに属するリン酸化酵素であり、脳に広範囲に発現している。

興味深いことに、SIK3変異マウスは睡眠異常に加えて、養育・攻撃行動の減弱やうつ・不安行動の亢進など多面的な行動異常を示す。これらの行動変容が、睡眠覚醒異常に起因するものか、SIK3蛋白質が睡眠覚醒以外の多様の行動制御に関わっているのかは不明である。様々な本能行動において、視索前野が行動中枢のひとつであることが知られている。視索前野が解剖学的に境界不明瞭であることなどから、視索前野を構成する神経細胞集団や、各神経細胞集団の形成する神経回路ネットワークについての知見は限られていたが、恒岡らの最近提示した視索前野領域に偏在する神経細胞集団マーカー(Tsuneoka et al Frontier Neuroanatomy 2017, Tsuneoka et al in submission)を用いることで、視索前野の機能神経解剖学的研究が可能となってきた。

私たちの計画目的は、SIK3変異マウスを用いて、もしくはSIK3をターゲットにして、睡眠・覚醒、うつ・不安、養育・攻撃行動を統合的に制御する神経ネットワークの動作回路を明らかにすることである。

 

 
最近の主要論文
1. Tsuneoka Y, Tsukahara S, Yoshida S, Takase K, Oda S, Kuroda M, Funato H (2017) Moxd1 is a marker for sexual dimorphism in the medial preoptic area, bed nucleus of the stria terminalis and medial amygdala. Frontiers in Neuroanatomy, 1:26

2. Funato H, Miyoshi C, Yanagisawa M (2016) Forward-genetics analysis of sleep in randomly mutagenized mice. Nature, 539, 378-383.

3. Takase K, Tsuneoka Y, Oda S, Kuroda M, Funato H (2016) High-fat diet feeding alters olfactory-, social- and reward-related behaviors of mice independent of obesity. Obesity 24:886-894, 2016.

投稿日:2017年05月08日