公募研究

古屋敷 智之(神戸大学)

「ストレス抵抗性を司る神経回路の同定と内側前頭前皮質神経細胞形態変化の役割」

社会や環境から受ける長期的なストレスは、うつや不安など情動変容を促し、うつ病など精神疾患のリスク因子となる。一方、短期的なストレスは、ストレスへの抵抗性を増強する。長期的なストレスによる情動変容に比べ、短期的なストレスによるストレス抵抗性増強のメカニズムには不明な点が多い。研究代表者らは、マウスの社会挫折ストレスを用い、単回ストレスが内側前頭前皮質(mPFC)のドパミン受容体を活性化してうつ様行動を抑制すること、反復ストレスは炎症関連分子を介しmPFCドパミン系を抑制してうつ様行動を促すこと示した。さらに、単回ストレスがmPFCのドパミン受容体を介し、mPFCの特定の興奮性神経細胞の樹状突起やスパインを造成することも示している。これらの結果は、単回ストレスがmPFCのドパミン受容体を介し、ストレス抵抗性を司るmPFCへの特定の神経入力を造成し、うつ様行動を担う神経回路を抑制する適応回路シフトを促すことを示唆するが、実体は不明である。本研究では、mPFCのドパミン受容体により制御されるmPFCの入出力回路を調べ、その入出力回路の神経活動を操作してストレスによる情動変容への影響を調べることで、ストレス抵抗性増強を担うmPFCの入出力回路を同定する。並行して、mPFCのドパミン受容体により造成されるシナプスがストレス抵抗性増強に必須かを光遺伝学的操作などにより検証する。以上により、短期的なストレスがmPFCドパミン系を介しストレス抵抗性を増強する適応回路シフトの実体を解明するとともに、mPFCの神経細胞形態変化との因果関係に迫る。

 

 
最近の主要論文
1. Deguchi Y et al. mDia and ROCK mediate actin-dependent presynaptic remodeling regulating synaptic efficacy and anxiety. Cell Reports 17, 2405-2417 (2016).

2. Tanaka K et al. Prostaglandin E2-mediated attenuation of mesocortical dopaminergic pathway is critical for susceptibility to repeated social defeat stress in mice. J Neurosci 32, 4319-4329 (2012).

3. Shinohara R et al. A role for mDia, a Rho-regulated actin nucleator, in tangential migration of interneuron precursors. Nature Neurosci 15, 373-380 (2012).

4. Furuyashiki T and Narumiya S. Nature Rev Endocrinol 7, 163-175 (2011).

投稿日:2017年05月08日