公募研究

能瀬 聡直(東京大学)

「体性感覚フィードバックによる発生期運動回路の編成と機能シフト」

動物は自身が生み出す運動の結果を常にモニターし修正することで適切な運動能力を発達させます。本研究では運動経験のフィードバックを介した機能シフトにより運動回路が適応的に発達する過程を探ります。このためショウジョウバエ幼虫をモデルとした研究を行います。私達はこれまでに、幼虫の運動制御に関わる介在神経細胞を多数同定し、コネクトミクス解析(電子顕微鏡画像3次元再構築)によりその回路構造を明らかにしてきました。またカルシウムイメージングを用いて胚発生過程における神経活動を追跡し、幼虫の運動系が以下のような機能シフトを伴いながら発達することを見いだしています。すなわち、「筋肉の自律的な収縮」から「ギャップ結合を介した中枢回路の自発発火により誘導される運動」を経て最終的に「中枢パターン生成回路により生み出される運動」を完成するというものです。さらに私達は体性感覚を担う機械受容チャネルNompC の変異体を利用して感覚フィードバックを特異的に遮断すると、上記の機能シフトが正常に起こらないという知見を得ています。以上の結果は体性感覚のフィードバックを反映させ中枢回路を再編成することで、段階的に運動回路が形成されることを示唆しています。そこで本研究では単一細胞腫の可視化・操作技術やコネクトミクス解析など、幼虫で最近可能となった高度な中枢回路解析技術を駆使することで、機能シフトに関わる候補細胞および神経結合を特定し、機能シフトを伴う運動回路の発達が体性感覚によって制御される仕組みを探ります。比較的構成が単純な同定可能回路のなかで回路シフトの基盤となる細胞・シナプスレベルでの現象を明らかにすることで本領域に貢献したいと願っています。

 

 
最近の主要論文
1. Matsunaga T, Kohsaka H, *Nose A. (2017) Gap junction-mediated signaling from motor neurons regulates motor generation in the central circuits of larval Drosophila. J Neurosci. 37, 2045-2060.
(>>selected as a featured article in the issue of the journal)

2. Fushiki A, Zwart MF, Kohsaka H, Fetter RD, *Cardona A and *Nose A. (2016) A circuit mechanism for the propagation of waves of muscle contraction in Drosophila. eLife 10.7554/eLife.13253.
(>>introduced by an “INSIGHT” article of the journal)

3. Kohsaka H, Takasu E, Morimoto T and *Nose A. (2014) A Group of Segmental Premotor Interneurons Regulates the Speed of Axial Locomotion in Drosophila Larvae. Curr. Biol. 24, 2643-2651.

4. Okusawa S, Kohsaka H and *Nose A. (2014) Serotonin and downstream leucokinin neurons modulate larval turning behavior in Drosophila. J Neurosci. 34, 2544-2558.

投稿日:2017年05月07日