公募研究

一瀬 宏(東京工業大学)

「発達に伴うモノアミンニューロンの代謝シフト機構の解明」

注意欠陥多動性障害(ADHD)やトゥーレット症候群、強迫性障害(OCD)などの発達障害は、大脳基底核における情報処理過程の障害により発症すると考えられ、症状も発達に伴って変化することが知られています。線条体におけるドーパミン欠乏により起こる運動障害も、成人ではパーキンソニズムが主徴となるけれども、幼小児期にはジストニアが主徴となります。大脳基底核の情報処理過程において、発達に伴って神経回路がどのように変化するために、このような症状の変遷が起きるのか。それを本研究班での活動を通じて明らかにしたいと考えています。

 これまで神経終末におけるドーパミン量は、生合成律速酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)の発現量により調節されていると考えられてきました。しかし、TH活性だけでなく小胞モノアミン輸送体(vMAT2)によるシナプス小胞内への取り込み、ドーパミントランスポーター(DAT)によるシナプス間隙から神経終末への再取り込み、ドーパミン分解酵素であるモノアミン酸化酵素やカテコールO-メチル基転移酵素など多くの要因により制御されていることが明らかとなってきています。ドーパミンニューロンによるシナプス後細胞への情報伝達は、ドーパミンニューロンの発火頻度だけでなく、これらの物質代謝によっても大きく影響を受けています。ドーパミンの代謝がどのように制御されているか、発達に伴って代謝制御機構がどのように変化するのか、それぞれの疾病ではどの因子がどのように変化しているのかを明らかにするために、動的な物質代謝を中心として解析を進めていきます。

 遺伝子改変マウスやアデノ随伴ウイルスを利用してin vivoでの解析を中心として行っていきます。同時に、これまでのカテコールアミン生合成酵素の生化学的研究を応用して、ニューロンの構造や機能を解析するための新たなツールの開発も行っていく予定です。

 
最近の主要論文
1. Kawahata I, Ohtaku S, Tomioka Y, Ichinose H, Yamakuni T (2015) Dopamine or biopterin deficiency potentiates phosphorylation at Ser and ubiquitination of tyrosine hydroxylase to be degraded by the ubiquitin proteasome system. Biochem Biophys Res Commun 465: 53-58.

2. Tokuoka H, Hatanaka T, Metzger D, Ichinose H (2014) Nurr1 expression is regulated by voltage-dependent calcium channels and calcineurin in cultured hippocampal neurons. Neurosci Lett 559: 50-55.

3. Lee NC, Shieh YD, Chien YH, Tzen KY, Yu IS, Chen PW, Hu MH, Hu MK, Muramatsu SI, Ichinose H, Hwu WL (2013) Regulation of the dopaminergic system in a murine model of aromatic l-amino acid decarboxylase deficiency. Neurobiol Dis 52C: 177-190.

4. Tokuoka H, Muramatsu S, Sumi-Ichinose C, Sakane H, Kojima M, Aso Y, Nomura T, Metzger D, Ichinose H (2011) Compensatory regulation of dopamine after ablation of the tyrosine hydroxylase gene in the nigrostriatal projection. J Biol Chem 286: 43549-43558.

投稿日:2017年05月07日