公募研究

北西 卓磨(大阪市立大学)

「海馬から海馬外への情報出力経路の行動適応」

海馬は場所・時間・情動などさまざまな情報を処理する脳領域だが、こうした多様な情報が海馬の数ある投射先へとどのように分配されて伝達されるかは分かっていない。海馬の情報は「海馬台」という領域を介して5箇所以上の脳領域へと送られる。海馬台の個々の神経細胞は、これらの投射先のうち一部の領域にのみ投射することから、投射先ごとに異なる情報が伝達されることが示唆される。海馬のもつ情報は動物の行動にともない適応的に変化するため、海馬台から海馬の外部への情報伝達の経路も行動に応じて機能的にシフトすることが予想される。ところが、海馬台における情報の分配の実態はこれまでまったく分かっていない。そこで本研究は、(1) 海馬台のもつ情報が数ある投射先へとどのように分配されるか、さらに、(2) こうした情報と投射経路の対応関係が行動に応じていかに変動するか、という2 点を明らかにすることを目的とする。この目的を達するためには、海馬台の神経細胞の活動を、投射先の領域を同定したうえで計測できることが望ましい。しかし、一般的な神経活動の計測法では、活動を計測している神経細胞がどこに投射するのかは知りえない。そこで本研究は、自由行動中のラットから100個程度の神経細胞の発火活動を一斉に計測しつつ、さらにこれらの神経細胞の投射先を同定する大規模計測法を開発する。具体的には、多点シリコンプローブ電極をもちいた細胞外記録法と経路選択的な光遺伝学手法とを組み合わせた計測法を構築する。また、この計測法は電極を脳に留置する慢性記録であるため、おなじ細胞の活動パターンを複数の行動課題において計測して比較できる。本研究は、この活動計測法を海馬台に適用することで、海馬台の神経細胞が、(1) どのような発火パターンを示し、(2) どこの脳領域に投射し、(3) 行動課題によりどのように発火パターンが変化するかを網羅的に解明することを目指す。

 

 
最近の主要論文
1. Kitanishi T, Matsuo N (2017) Organization of the claustrum-to-entorhinal cortical connection in mice. J Neurosci 37:269-280.

2. Kitanishi T, Ujita S, Fallahnezhad M, Kitanishi N, Ikegaya Y, Tashiro A (2015) Novelty-induced phase-locked firing to slow gamma oscillations in the hippocampus: requirement of synaptic plasticity. Neuron 86:1265-1276.

3. Kitanishi T, Sakai J, Kojima S, Saitoh Y, Inokuchi K, Fukaya M, Watanabe M, Matsuki N, Yamada MK (2010) Activity-dependent localization in spines of the F-actin capping protein CapZ screened in a rat model of dementia. Genes Cells 15:737-747.

4. Kitanishi T, Ikegaya Y, Matsuki N, Yamada MK (2009) Experience-dependent, rapid structural changes in hippocampal pyramidal cell spines. Cereb Cortex 19:2572-2578.

投稿日:2017年05月07日