公募研究

平田 たつみ(国立遺伝学研究所)

「二次嗅覚並行回路の機能的シフトの研究」

この領域では、最近私が開発した新規回路操作技術「神経細胞誕生日タグ付けシステムシステム」を使って貢献したいと考えています。終末分化状態にある神経細胞にとって、その誕生日、すなわち最終分裂を終えたタイミングは特別な意味を持ちます。誕生日が神経細胞の「運命」を直接的に決定する場合もあれば、分化の「タイミング」が間接的に結合選択性に影響する場面もあるでしょう。誕生日タグ付けシステムでは、このようなさまざまな意味合いを持つ神経細胞の「誕生日」を利用して、神経回路を分解して操作することができます。これまでにない新しいタイプの神経細胞の分類ですし、汎用性も高いので、いろんな場面で活躍するツールになると思います。班員のみなさんに使っていただいて共同研究を推進したいと思います。

「神経細胞誕生日タグ付けシステムシステム」の原理を図に示しました。神経分化関連遺伝子の中には、神経細胞が最終分裂を終えた後、一過的にピークを持って発現するものがあります。このような遺伝子プロモーターの下流にタモキシフェン依存型Cre組換え酵素(Cre-ER)遺伝子を連結してトランスジェニックマウスを多数作成しました。これらのマウスでは、多くの神経細胞において誕生後一過的にCre-ER が発現します。ある発生ステージにタモキシフェンを投与すれば、ちょうどその前に最終分裂を終えた生まれたばかりの神経細胞のみでloxP組換えが誘導され、これらの細胞を未来永劫的に誕生日タグ付けすることができます。BrdUによる誕生日標識に似ていますが、固定標本で細胞核しか染色できないBrdUと比較すると、はるかにいろんなことができます。シナプス局在型GFPを使えば投射標的域をマップできますし、神経毒や光遺伝学等を使って神経活動に摂動を与えることも容易です。

私自身がこの技術を開発した理由は、嗅球の投射神経回路細胞がその誕生日によって、異なる標的に投射するという間接的な証拠を得ていたからです。「神経細胞誕生日タグ付けシステム」を作って、それを証明しようと考えました。当初の予想以上にうまく系が動き、嗅球細胞の誕生日依存的な投射領域の違いが明らかになりつつあります。今後は、このツールを利用して、嗅覚神経回路の機能的シフトについて探求してゆこうと考えています。

 

 
最近の主要論文
1. Nomura T, Hirata T (2017) The neocortical homologues in nonmammalian amniotes: bridging the hierarchical concepts of homology through comparative neurogenesis. In: Kaas I (ed.), Evolution of Nervous Systems, 2e, vol. 2, pp.195-204. Oxford: Elsevier.

2. de Frutos CA, Bouvier G, Arai Y, Thion MS, Lokmane L, Maryama K, Garcia-Dominguez M, Charnay P, Hirata T, Riethmacher D, Grove EA, Tissir F, Casado M, Pierani A, Garel S (2016) Reallocation of olfactory Cajal-Retzius cells shapes neocortex architecture. Neuron 92, 435-448.

3. Mita S, Monasterio-Schrader P, Fünfschilling U, Kawasaki T, Mizuno H, Iwasato T, Nave K-A, Werner HB, Hirata T (2015) Transcallosal projections require glycoprotein M6-dependent neurite growth and guidance. Cereb Cortex 25, 4111-4125.

4. Kanatani S, Honda T, Aramaki M, Hayashi K, Kubo K, Ishida M, Tanaka DH, Kawauchi T, Sekine K, Kusuzawa S, Kawasaki T, Hirata T, Tabata H, Uhlén P, Nakajima K (2015) The COUP-TFII/Neuropilin-2 is a molecular switch steering diencephalon-derived GABAergic neurons in the developing mouse brain. Proc Natl Acad Sci USA 112, E4985-4994.

投稿日:2017年05月07日