行動制御回路の障害と再編

筒井 健一郎(東北大学)

「情動・注意の制御に関わる大脳皮質間神経回路の適応動態」

経頭蓋磁気刺激(TMS)は、頭蓋上に置いたコイルに電流を流してコイル周囲に急激な磁場の変化を起こすことによって、間接的に脳内に微弱な電流を流す手法である。刺激パルスの頻度によって、神経活動を促進・抑制の双方向に操作することが出来る。われわれのグループでは、TMSを世界に先駆けて霊長類の認知機能の研究に適用し、研究をすすめており、これまでに、前頭連合野への抑制操作によって、破壊実験に相当する程度の、重篤な短期記憶の障害を誘発できることを検証している。TMSの方法論的な利点は、完全に非侵襲的な脳活動の操作法であり、同一個体で刺激場所を変えながら繰り返し実験が行えること、また、神経活動の促進・抑制を自在に行えることである。本課題では、このTMSを方法論的な柱として、その利点を活かしながら研究を展開する。まず、TMSによって前頭葉の局所的な脳活動を操作することによって、全脳の神経ネットワーク動態に変化を引き起こし、注意や情動のサル障害モデルをつくる。障害の性質や程度は、適切な行動課題をデザインし、多角的に評価する。そして、正常時、異常時、および、機能の回復期の広範囲な脳活動を、皮質表面電位(Electro Corticogram, ECoG)や、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)などによって計測する。ECoG 計測は伊佐グループより、脳機能イメージングは尾上グループより、全面的な支援・協力をいただきながら進める。取得したデータは、コンピュータによる大規模解析を行って、注意や情動機能の計算論的モデルの構築を目指す(小池グループからの支援・協力)。構築されたモデルの検証、およびさらなるモデルの作り込みのため、5年間の研究期間の後半には、分子生物学的手法を用いて経路選択的阻害を行う(小林グループからの支援・協力)。また、大規模神経回路の動態と局所的な神経現象との関係を明らかにするために、前頭連合野の局所回路の解析も行う(礒村・藤山グループとの連携)。この研究により、前頭連合野を中心とした、注意や情動を司る大規模ネットワークの動態の解明、および、その異常に基づくさまざまな神経・精神疾患の発症機序の理解が進むことが期待される。

 
最近の主要論文
1. Tsutsui KI, Grabenhorst F, Kobayashi S, Schultz W (2016) A dynamic code for object valuation in prefrontal cortex neurons. Nature Communications, in print
2. Tsutsui KI, Hosokawa T, Yamada M, Iijima T (2016) Representation of Functional Category in the Monkey Prefrontal Cortex and Its Rule-Dependent Use for Behavioral Selection. Journal of Neuroscience 36: 3038-3048.
3. Oyama K, Tateyama Y, Hernádi I, Tobler PN, Iijima T, Tsutsui KI (2015) Discrete coding of stimulus value, reward expectation, and reward prediction error in the dorsal striatum. Journal of Neurophysiology 114, 2600-2615.

投稿日:2015年04月30日