行動制御回路の障害と再編

相澤 秀紀(広島大学)

「ストレス対処行動におけるモノアミン制御経路の障害と回復」

拘束や恐怖等のストレス環境におかれた動物は回避や無動といった受動的行動もしくは攻撃・探索などの能動的行動のいずれかを二者択一的に選択することが知られています。例えば、本来マウスは他のマウスに対して積極的に近づき探索行動(能動的行動)をとることが知られています。しかし、大型のマウスから以前に攻撃を受けた敗北ストレス経験を経るとマウスは探索行動から回避行動(受動的行動)へと行動パターンを変化させ、大型マウスへはめったに近づかず行動量も減少してしまいます。このようなストレス下における行動パターンのシフトは動物の環境適応に必須ですが、その神経基盤は未だ不明なままです。

これまでの研究から脳幹部に存在するドーパミンやセロトニンなどのモノアミン産生細胞の活動パターンがストレス対処行動のパターンと相関することが示唆されています。最近、我々のチームはモノアミン産生細胞の活動制御を担う手綱核という脳部位に注目し、その神経活動を人為的に増加させた動物が慢性ストレス下における過剰な受動的なストレス回避行動を示す事を見出しました。これらの結果は、モノアミン産生細胞の活動制御がストレス対処行動における神経回路シフトに関与する事を示唆しています。

このような事実を背景に、本研究ではストレス対処行動がシフトする際の神経回路網動態及びその障害からの回復機構解明を目指します。具体的にはストレス対処行動においてモノアミン産生細胞の活動制御にあたる脳領域を神経経路特異的な遺伝子操作を用いて同定し、それらのストレス対処行動における活動動態を大規模神経活動測定により解き明かします。また、ストレス体験を経て変化する神経回路動態に対して光遺伝学及び化学遺伝学プローブと行動解析を組み合わせ、ストレス障害からの回復過程に関与する神経機構の解明に迫ります。

 
最近の主要論文
1. Cui W, Mizukami H, Yanagisawa M, Aida T, Nomura M, Isomura Y, Takayanagi R, Ozawa K, Tanaka K, Aizawa H. Glial dysfunction in the mouse habenula causes depressive-like behaviors and sleep disturbance. J Neurosci 34:16273–16285. 2014
2. Aizawa, H., Yanagihara, S., Kobayashi, M., Niisato, K., Takekawa, T., Harukuni, R., McHugh, TJ., Fukai, F., Isomura, Y., Okamoto, H. The synchronous activity of lateral habenular neurons is essential for regulating hippocampal theta oscillation. J Neurosci 33:8909-8921. 2013
3. Aizawa H, Kobayashi M, Tanaka S, Fukai T, Okamoto H. Molecular characterization of the subnuclei in rat habenula. J Comp Neurol. 520:4051-4066. 2012

投稿日:2015年04月30日