行動制御回路の発達と遷移

藤山 文乃(同志社大学)

「運動学習の獲得と実現に関わる神経回路の構造基盤と機能変化」

運動学習においては、試行錯誤しながらそのスキルを獲得する初期の時期(獲得期)と、習熟した後にそのスキルのさらなる上達のための時期(熟練期)が存在する。最近この運動学習の過程には、線条体の異なる領域間での機能シフトが関与するという報告がある (Yin et al., 2009)。 この線条体領域は大脳皮質の異なる領野を反映したものであるが、大脳皮質—基底核—視床ループを規定している要因には、他に大脳皮質の層構造、線条体のストリオソーム/マトリックス構造、視床の亜核、およびこの三要素の相互関係などが報告されており、この複雑な回路網の中で“真の機能領域”を見抜く必要がある。研究代表者はこれまで単一神経標識など遺伝子工学を取り入れた形態学的手法を用いて、大脳皮質—基底核—視床ループが、点対点もしくは部位毎の整然とした中継によるわけではないことや、従来の直接路・間接路スキーム(DeLong仮説)との矛盾を指摘してきた。

本研究班は連携研究者(苅部)と連携して、形態学と電気生理学的手法を組み合わせ、新しい大脳皮質—基底核—視床回路を解明し、その機能性を検証する。また、連携研究者(高橋)は、Brain-Machine Interface (BMI)を用いた齧歯類の脳におけるセルアセンブリの可塑的変化の研究を行ってきている。ここで蓄積されたノウハウを活かして、運動学習中の各時期におけるラットのマルチニューロン記録の比較と、脳深部刺激法(Deep Brain Stimulation: DBS)や光遺伝学操作によるこの神経回路への影響を動的に解析する。

また、この回路を細胞種特異的に操作するためには、各ニューロンの生化学的な特性や、投射先の軸索終末が放出する神経伝達物質と受容体の関係をシナプスレベルで解読する必要がある。研究分担者(窪田)は、三次元電子顕微鏡解析法を確立しつつあり (Kubota, 2014; DeFelipe et al., 2013)、複雑な神経回路において、情報の送り手と受け手を同定しつつ、神経回路の中でどのような情報伝達が行われているかを網羅的に調べる予定である。

 
最近の主要論文
1. Unzai T , Kuramoto E, Kaneko T, Fujiyama F. Quantitative Analyses of the Projection of individual Neurons from the Midline Thalamic Nuclei to the Striosome and Matrix Compartments of the Rat Striatum. Cerebral Cortex, 2016
2. Fujiyama F, Nakano T, Matsuda W, Furuta T, Udagawa J, Kaneko T. A Single-Neuron Tracing Study of Arkypallidal and Prototypic Neurons in Healthy Rats. Brain Structure and Function, 2016
3. Fujiyama F, Karube F, Takahashi S. Morphological elucidation of basal ganglia circuits contributing reward prediction. Frontiers in Neuroscience, 2015.

投稿日:2015年04月30日