行動制御回路の発達と遷移

渡邉 大(京都大学)

「社会学習による音声スキルの獲得と固定化を媒介する神経回路制御」

スズメ亜目に属する鳥類(ソングバード)は、ヒトの言語学習のプロセスと同様、模倣により複雑な音声(囀り)を後天的に獲得します。生後発達期に社会学習を通じて音声を確立すると、獲得した音声を生涯維持することができます。その一方で、原則的には、新たな囀りのレパートリーを学習することができなくなります。このように複雑なスキルを模倣により獲得し、終生その能力を維持するためには、関与する神経回路の情報処理や可塑的特性に何らかの切り替えが生じると予想されます。しかしながら、音声スキルの獲得から固定化へいたる神経回路の機能的遷移メカニズムについてほとんど理解されていません。そこで本研究では、音声スキルの発達に伴う神経情報表現、可塑性シグナル分子動態の変化に注目して音声制御系回路における機能的遷移を明らかにします。具体的には、ソングバードの囀りを妨げないような小型軽量の電気生理学的デバイスを用いた神経活動計測に加え、自由行動下の生体イメージングによる細胞内シグナリング動態(細胞内Ca2+濃度、FRETバイオセンサーによるPKAおよびMAPKなどキナーゼ活性)の計測を行います。さらにA01 小林班が開発する光遺伝学・化学遺伝学的手法による神経回路操作技術を導入することで、音声制御系回路における神経情報・可塑性の遷移と音声スキルの獲得・維持の因果関係を明らかにします。ソングバードの音声制御系回路が哺乳類の大脳-基底核-視床ループと類似の回路構築を特徴とすることから、言語を始めとする様々なスキルの獲得と維持の基盤となる神経回路機構の解明が期待できます。さらに磯村班、藤山班と連携し、哺乳類モデル動物における大脳-基底核-視床ループの解析に本アプローチを展開します。これにより種間で保存されている大脳-基底核-視床ループ神経回路の発達と遷移のメカニズム、オペラント学習と社会学習での神経回路動作の共通点や相違点を探索します。

 
最近の主要論文
1. Abe, K., Matsui, S., and Watanabe, D. (2015) Transgenic songbirds with suppressed or enhanced activity of CREB transcription factor. Proc Natl Acad Sci U S A. 112: 7599-7604.
2. Hasegawa, T., Fujimoto, H., Tashiro, K., Nonomura, M., Tsuchiya, A., and Watanabe, D. (2015) A wireless neural recording system with a precision motorized microdrive for freely behaving animals. Sci. Rep. 5: 7853.
3. Fujimoto, H., Hasegawa, T., and Watanabe, D. (2011) Neural coding of syntactic structure in learned vocalizations in the songbird. J Neurosci. 31: 10023–10033.

投稿日:2015年04月30日