領域代表ご挨拶

行動適応を担う
脳神経回路の機能シフト機構

領域代表 小林和人
(福島県立医科大学・教授)

平成26年度から30年度までの5年間の計画で、科学研究費助成事業(科学研究費補助金)の新学術領域研究(研究領域提案型)において、「行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構」(適応回路シフト)の研究領域を推進します。本研究領域では、神経回路の操作・解析のための新しい技術を駆使して、行動の調節に重要な神経回路の発達や遷移、回路の損傷に対する機能代償と再編成のメカニズムの解明に取り組みます。

これまで様々な神経回路研究が行われて来ましたが、行動適応のために回路が機能的にシフトするメカニズムに着眼した研究はほとんど行われてきていませんでした。私たちは、回路の機能シフトは、動物が学習によって行動を獲得する際に、また、損傷などにより失われた機能を回復する際に起こり、動物のライフサイクルの中でとても重要な役割を持っていると考えていますが、このような研究には、個別の領域を研究するだけでなく、より広範な神経回路を対象とした解析手法が必要になります。本研究領域では、この重要なテーマにアプローチするため、分子生物学、電気生理学、神経解剖学、システム生理学などの専門家が連携し、共同研究を推進することによって、回路機能シフトの動態とそのメカニズムの解明に挑みます。

計画研究班では、行動の基礎になる神経回路の機能を明らかにするために、神経回路の操作や計測、モデリングなどの技術開発を行うとともに、動物が行動を学習する際、あるいは、それを切り替える際に、神経回路がどのように機能シフトを起こすか、また、脊髄や脳の一部を損傷した場合、回路がどのように再編成を起こし、機能の回復に結びつくのかという脳内機構の解明に取り組みます。さらに、平成27年度より公募研究課題を加え、計画研究を補完するばかりでなく、この分野での活躍が期待される新たな研究提案を採択し、連携を強化していきたいと考えています。総括班活動では、若手研究者の育成や研究支援活動にも力をいれていきます。

本領域の研究成果は、高次脳機能障害の病態や脳・脊髄の損傷後に起こる機能代償のメカニズムについて、神経回路レベルでの理解に結び付き、今後、疾患の病態を改善・回復させるための科学的エビデンスに基づいた合理的な治療法やリハビリテーション手法の開発に繋がることが期待されます。また、発達や学習の脳内機序を知ることは、効果的な教育・訓練法の開発につながる可能性を持つと考えています。