FUKUSHIMAいのちの最前線
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300地域社会が激変、医療・介護の再構築が必要──まず福島県の医療の復旧・復興状況を、先生ご自身がどのように捉えておられるかをお聞かせください。 福島第一原発事故に伴い、今回起きている問題は、医師不足ではなく、“医療崩壊”。宮城や岩手、茨城の被害は地震と津波によるものであり、これらが過ぎ去れば元の場所に戻ることが可能ですが、福島の場合は戻れない。特に、20㎞圏内は。元の場所に戻れるよう復旧作業が始まっていますが、現実問題としては医療だけでなく、生活のインフラがすべて壊れてしまっています。したがって、「復旧」など、口で言うほど簡単ではなく、また「復旧」しただけでは意味がありません。人口構成が変わり、何十年か先に訪れるだろう高齢社会に突然入ってしまったからです。 今後は、福島県に限らず、日本全部と言っていいと思いますが、放射能と『共生』するしかない。特に原発事故の周辺地域では、厳然としてこの問題が存在するため、戻る人はほとんどが高齢者。医療の担い手も多くが、他地域に行っています。医療者はどこでも職を見つけることができる上、多くが家族を持っているので、家族にしてみれば何もそこに戻る必要はない。どうしても戻らなくてはいけない人は多くはない。医療に限らず、あらゆる生活の産業の担い手が必ずしも戻らず、復旧はもとより、復興もかなり難しい。 こうした中で、大学としては、原発周辺地域の病院に新たに5人程度の医師を派遣しています。さらに、この4月からは大学に寄付講座を作り、様々な診療科の医師を10人以上派遣します。医師不足ではなく、“医療崩壊”、つまりシステムの問題なので、これでうまく行くかどうかは分かりませんが、少なくても医師の数は揃う。──システムとしての“医療崩壊”とは、様々なインフラが整っていないという意味でしょうか。 はい。今回の診療報酬と介護報酬の同時改定により、今まで以上に鮮明な形でケアミックスが求められるようになりました。問題はこの点にあります。高齢者が町に戻っても、ほとんどが一人暮らし、あるいは高齢者のご夫婦の二人暮らし。今までは介護とまではいかなくても、一緒に生活をする若い人がいましたが、今度はいませんから、医療と介護を同時に提供しなければならない。ケアミックスという今回の改定の骨子を先取りしたような形で医療・介護体制を構築する必要があります。未知のものに対する新たな挑戦と言え、なかなか大変なことです。 それだけでなく、妊婦、子供、高齢者、社会の担い手となる働き手。すべての人に寄り添って、すべてのニーズに応えていくという新たな対応能力も求められる。一言で言えば、「寄り添い型の医療」。その必要性を認識して、大学としても体制を企画、提案してやっていかなければいけません。 いまだ福島第一原発事故の影響が続く福島県。医師など医療者の流出も続く厳しい現状にありながらも、福島県立医科大学は、「福島医大復興ビジョン」を掲げ、県全体の地域医療や大学の復興、再生に挑む。この4月から、新たに医師10人程度を採用し、「災害医療講座」を発足させるほか、大学内に復興事業推進本部を立ち上げ、ビジョン実現に向け、本格稼働する。 学長を務める菊地臣一氏に、福島県の医療や大学の現状や課題、今後の展開などについてお聞きした(2012年2月27日にインタビュー)。m3.com 医療維新掲載菊地臣一・福島県立医科大学学長に聞くm3.com編集長 橋本 佳子東日本大震災から1年:被災地の今“医療崩壊”の原因、医師不足にあらず

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