FUKUSHIMAいのちの最前線
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第3章放射能との闘いFUKUSHIMA いのちの最前線235 さらに遠距離,広い範囲になることに関しては,ある程度の時間的な余裕があるでしょうから,いろいろな測定項目を決めておいて,それに基づいて意思決定をするという,何かそういうかたちが実践的なのかなと私は今思っています。 今回,情報共有が先ほどのヨウ素剤の話ひとつとってもなかなかうまくいっていない,あるいは現場での測定結果が政策決定にうまくフィードバックされているようには見えないというように,いくつかの問題点があったと思います。そういうことに関して,私はIAEAの考え方を紹介しましたが,他の先生方からは,災害医療の中でどのようなかたちで意思決定をしているか,今後紹介していただければと思います。前川:この事故がまだ収束していないため,十分に検討していないんですが,20㎞圏内の初期被ばく医療機関が40%駄目になってしまったわけですね。京都府には原発はありませんが,そこでは初期被ばく医療機関を指定し100㎞圏内まで入れて被ばく医療機関を決めている。これを日本全部でやるのかということです。仮に今回のような事故が起こると,数年後にわが国のGDPがさらに5%下がるそうです。もう1回起こると合計10%になり,われわれはどのような生活をするのかということにもなる。 それから脱原発を唱える政権がずっと続いた場合,われわれの寄って立つところがわからなくなります。ですから原子力を推進するのであれば,想定外を考えてやはりわれわれも準備すべきだという議論をはっきりいえますが,どうなるかわからないというのであれば,私は正直いうと,次に向かっての体制の提案というのは,まだちょっとできないように思います。皆さんどうでしょう?鈴木:先ほど長谷川先生のほうから,もっと医学界全体が,あるいは救急医療,災害医療の先生方全体が,被ばく医療を少し知っておく必要があると話されました。また諸澄先生がおっしゃられますように,放射線技師はそういうものに対応できるような状況でして,必ずしも原発周囲だけではなく,日本全体でそういう教育が進んでいる組織もあるわけです。ですからひとつは初期被ばく医療機関というようなかたちで教育していくというやり方ではない,別な関係者の教育というものが絶対に必要になるだろうと,私は感じています。 もう一方で,実際に何か事が起きたときに,自動的に集めることができる,あるいはモニタリングができる,あるいは医師,看護師,放射線技師,放射線測定のできる専門家など,それらを動かせるような,もっとフレキシブルな体制というものを,これからもっと考えていく必要があるような気がします。今までは点を考えて,オフサイトセンターを考えて,そこにロジスティックスを全部集中させるということでしたが,今回はそれがまったく使えない状態だったわけで,この経験をどのように考えて,生かしていくかということが問われるように思います。前川:では,時間が過ぎていますので,1つだけお願いします。原口義座(前災害医療センター):前川先生のおっしゃった5%のGDP下落という話は非常に大事だと思います。基本的には救急医療の個々の場面の存在はもちろん重要ですが,それ以上に全体を見ていけることで,京都の例がいいかどうかわかりませんが,100㎞圏内も視野に入れた議論が必要だと思います。このメガ災害で,国全体のモチベーションが落ちている状態が続くということは,どんどん悪循環に入っていって,世界的にも悪循環になってくるだろうと思います。それをやはり持ち直していくために,こういう会議は目先のこともものすごく大事ですが,同時に広い視野で捉えてエデュケーションから何から掘り起こしていくということをもっともっと強調して,この会の意義を強く出していくことだと思います。それが学会に発展していくことにも繋がると思いますので,考えていただきたいと思います。以上です。前川:結びに相応しい言葉を頂戴いたしました。ありがとうございました。これをもちまして,午後のパネルディスカッションを終わりたいと思います。◆次期大会長挨拶 明石真言氏 来年はまだ事故が収束していないということは絶対にないと思いますが,次回は皆さん方の考えたこと,今後どうするかという問題点をより集約できるような会にさせていただきたいと思います。 一応,2012年9月8日の土曜日を考えております。おそらく会場は放医研の講堂で,そのほうが会の節約にもなるかと思いますので,皆さん,ご協力のほどよろしくお願いいたします。では来年,また千葉でお会いしたいと思います。

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