FUKUSHIMAいのちの最前線
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232将来の緊急被ばく医療の課題 もちろん強制ではないですが,行っていただけるということで,それこそ受入地の福島県の鈴木会長などが缶ビールを差し入れしてくれたりしました。ですから義務ではないし,またボランティアでもないし,ちょっと微妙なところでしたが,汚染自体はそれほど広がっていないので,私たちも送り出すときには「怪我をしないでね」といったところですが,帰ってきたあとのPTSDではないですが,フォローは必要かなと思っています。箱崎幸也(自衛隊中央病院):自衛隊からも警察庁からの要請によって,歯科医官が相馬の検死に出ています。今まで自衛隊の歯科医官だった人は,奥尻とか御巣鷹山,スマトラでそういった歯型の鑑定をしていまして,そういうノウハウも事前教育がなされています。ですから事後のPTSDの対策も重要ですが,やはり必要な状況があれば,事前教育や日頃からの訓練が重要であると思います。派遣された歯科医官の人たちの今回の話では,かなり時間が経って口の中がひどい腐敗状態でした。そういう状況でしたから,今回はさすがに経験のある先生でも,ものすごいストレスがあったということだけ伝えたいと思います。前川:ありがとうございました。ちょっと鬼気迫るお話ですが,まだ終了したわけではないですから,作業者も含めて防災業務に携わった方々,それから住民の方々のメンタルヘルスということが問題になると思います。このあたりは金谷さん,どう思いますか? 今後,取り組むべき方策として。金谷泰宏:メンタルヘルスについては,まず,初期のパニックのときの問題は,3月18日,厚生労働省のほうから全保健所に向けて相談窓口の設置について事務連絡を出しています。また今後の問題ですが,これは福島だけに留まらず被災県すべてに関係しますが,データベースが一番問題です。特に復興後期の6か月後ぐらいから非常に問題になってくると通常いわれておりますので,これは福島に限らず一律に対応しないといけない問題なのだろうと考えます。この原発に特にということではなくて,全体に共通する問題で,その上にさらに福島に特徴的なものについては,個々の事情をふまえて捉えていかなければいけないと考えております。前川:それからリスクコミュニケーションの問題もあったと思います。これはお互いの目の前にあるリスクを共通認識して,情報を共有化するということだと思いますが,それについてはどうでしょうか? 今回の福島原発に関するリスクコミュニケーションで,こういうところに問題があったということがあれば,皆さんそれぞれお願いいたします。諸澄:私たち放射線技師の場合,医療被曝をmgyで測っています。患者さんに対しては部分被ばくがあるので,胸の写真だったら入射表面線量で0.2mgyですよとか,あるいはCTでは何mgyですよという単位で話をしています。 ところが放医研のホームページや文科省でもmSvです。ですからmgyでお話してしまうと,被災者の方が混乱してしまいますので,mSvで統一しましょうということになりました。しかしそうすると,部分被ばくと全身被ばく,自然放射線と医療被ばくとをなぜ混在させるのだろうという話が出てきます。ですからその単位の点で1つ明確なサジェストをいただきたいと思います。 それからもう1つは先ほど先生がおっしゃったように,医療被ばくは正当化があります。ただ今回は正当化の判断の前に暴虐な被ばくというかたちで避難されている方々もいらっしゃいます。そういう正当化のない被ばくに関してどう説明するか,その2点です。ワンボイスの課題長谷川:今もおっしゃいましたが,統一感のないことがリスクコミュニケーションの最大の問題になっていると思います。通常,リスクが生じて,たとえば困ったことが起きるといろいろな方に相談しますが,大体専門家の意見は統一感がございます。ただ今回の問題に関しては,こんなにいたのかと思うぐらい専門家がたくさんいらっしゃいます。その方々が,これもまたさまざまな見解を,それがすべて真実だと述べて,それが統一されていないということが一般の人の判断を迷わせています。ですから皆がマルチボイスでバラバラな見解を発することは問題であり,それをユニボイス,ワンボイスにして声をそろえていただくように,ぜひこの研究会でもはたらきかけていただければと思います。前川:私は逆にそういった意見を述べていらっしゃる方々は,ほとんど金太郎あめと同様,どこを切っても同じメンバーばかりということが目について,ワンボイスだなと思っています。それ以外の人たちもまた別の声がさまざまあります。ちょっとした見解の相違とか,立場や人生観,哲学の相違などいろいろな違いがあって,さまざまなことをおっしゃる方がいる。しかしここにいらっしゃる多くの方々は,ほとんど共通認識を持っていると私は思っています。 非常に困るのは,マスコミをうまく利用して,この時期に及んでいろいろ本を書いたりする方もいらっしゃる。とにかく放射線に関しては,特に健康

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