FUKUSHIMAいのちの最前線
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224福島医大被曝医療班の活動−communicationとeducation−とのできなかった国の医療として,被曝医療は非常に一般的な医療と考える。被曝医療の分野は高い専門性を有するが,裏返せば高い閉鎖性でもある。今後,少なくとも30年間は被曝医療を維持しなければならない地方の医師としては,いかに被曝医療を一般的なものにするかが現在の悩みの種だ。 当院は,震災後,これまで多くの職員にシミュレーションに参加してもらったが,いまだ広く内容を伝えるには至っていない。院内で被曝医療班が孤立しないように,福島が日本から孤立しないように,原子力災害医療の責務が一部の関係者だけに負わされないように対策をとらねばならない。さもないと,被曝医療や原子力災害対応は一部の医療者だけの知識となり,その専門性が閉鎖性を生み,日本は再び同じ過ちを犯し,これまでのように原子力災害から何も学ばず,歴史が再び繰り返されることになる。 今後は外部教育機関と提携し,院内に限らず,県内外のあらゆる医療者に被曝医療を伝えるとともに,被曝医療が当院の特色の一つとなればと考えている。 知識・教育の欠如は放射線のリスク評価を困難にし,医療者にとっては被曝医療に対する不安感・恐怖感の一因となる。一方,社会的には過剰なストレスや,一部の風評被害やスティグマという言葉に代表される社会的差別の原因となる。読者にも,是非ともこの機会に,基本的な放射線の知識を拡充し,身近な方の不安や疑問に答えるリスクコミュニケーターの役割をお願いしたい。 2011年11月に文部科学省が小中高生向けに『放射線等に関する副読本』4)を作成公開した。今後は,是非とも国民の基本知識となるべく教育要綱に盛り込まれることを期待する。原子力そのものに対する意識:日本は原子力をどうするのか? 日本は21世紀の電力需要を,原子力発電を中心に賄おうとしていた。2009年度には約3割であった全電力需要に対する原子力発電の割合を,2019年度には4割に拡充する構想であった5)。 震災時には合計10基の原子炉が稼働中であった福島県では,実は,東京電力福島第一原発7・8号機と東北電力の小高・浪江原発が着工計画中であった。まさに国内有数の原発立地県で,原発の至近距離に暮らしている事実を別段意識することなく,われわれは電力の恩恵を享受して生活してきた。 今後,日本は原子力発電とどのように向き合うのか。電力をどのように生み出すのか。そもそも,現在と同じ電力消費に依存した生活を続けるのか。豊かさをとるのか原発をとるのかという単純な二者択一では解決できない。国民一人一人の意志が問われる難しい局面を,今迎えている。 風評被害が報道されるが,多くの方々から福島に,好意的で熱烈な支援を送ってもらっている。苦しかった震災当初から,和歌山県立医科大学救命救急センター,原子力安全研究協会,日本原子力研究開発機構,陸上自衛隊中央特殊武器防護隊,長崎大学,広島大学,放射線医学総合研究所,ほか全国各地から多大なる応援をいただいた。現在も福井大学,広島大学をはじめ,多くの被曝医療の専門家に発電所内の医療支援をしていただいている。誌面の都合上すべての方を記すことができないのが残念だが,心から感謝を申し上げたい。そして,今も原発内で災害収束にあたる現場作業員の皆様に,さらに,当事者としては当然とおっしゃる方もおられるだろうが,国民の義務を果たそうと日夜尽力されている,現場の444東電医療班の皆様に敬意を表したい。文 献1)財団法人原子力安全研究協会.緊急被ばく医療ポケットブック2005.《http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/b05_01.pdf》2)官報号外第219号.厚生労働省令第129号.電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令.3)ICRP Publ.111日本語版・JRIA暫定翻訳版.《http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,15092,76,html》英文原本はApplication of the Commission’s Recom-mendations to the Protection of People Living in Long-term Contaminated Areas After a Nuclear Accident or a Radiation Emergency. ICRP Publica-tion 111.《http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRPPublication111》4)文部科学省ホームページ.放射線等に関する副読本《http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1311072/index.html》5)日本電気事業連合会.原子力・エネルギー図面集《http://www.fepc.or.jp/library/publication/pamphlet/nuclear/zumenshu/digital/index.html》

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