FUKUSHIMAいのちの最前線
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156 16日、吾妻の嶺に初冠雪です。晩秋の雨は、落ち葉を濡らし、人の心をも潤ませます。そして、少し人恋しくさせます。まだ明け遣らぬ早朝と深夜の闇の中で聴く風や雨の音は、一時、人に人生や生いのち命を考えさせてくれます。うつりきてうたたわびしきくさのとにけさをながるるあきさめのをと(会津八一) 本学は、今、未曾有の東日本大震災に伴う原発事故の真っ只中で苦闘しています。現実の出来事には、終わりというものがありません。ここが小説や映画とは異なるところです。 原発事故も、今のところ、終わり(先)がみえません。医療人には、「目標や期限があれば、患者さんも医療人もそれが希望になり、どんな事にも耐えられる」という経験知があります。この斗たたかいには、人々が“やせ我慢”して動いているうちに、どこかに、あるいは何かに希望の灯りを見出せないと、いつか挫折してしまいます。 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(オットー・フォン・ビスマルク)という箴しん言げんは、この事故には当て嵌はまりません。何故なら、このような原発事故は歴史にはなかったし、誰も経験したことがないからです。しかも、試験の解答のような“正解”は存在しません。それだけに、新しいことをしたり、あるいは決断するには勇気が要ります。しかし、それがリーダーシップだと自分に言い聞かせています。 こんな時だからこそ、「社会を一つにまとめる糊は、人間の共感能力と他者の立場に身を置く能力」(アダム・スミス)(マイケル・ディルダ「本から引き出された本」)が、今の我々に求められているのではないでしょうか。この箴言を生かすには、話し手と受け手の双方に相手に対する信頼と敬意が必要です。そこには、年齢、職業、地位は関係ありません。 残念ながら、私は、不器用で「魚に自転車を売りつけられるくらい口がうまい」(レジナルド・ヒル「ダルジールの死」)わけでもありません。逆に、母は亡くなるまで「角がある」と嘆いていた程、寸鉄人を刺す言葉でしか討論できません。これからでも努力せねば…。そして、「起きたことは仕方がないし、これからも様々なことが起きる」を受け入れて、避けずに向き合っていきます。一本のマッチをすれば湖は霧(富沢赤黄男) 何とか本学が一本のマッチになれれば…。 この原発事故も、後世からみれば「歴史の転換点」と一行で片付けられてしまうのでしょう。そうであればこそ、尚更、“一瞬”という程の短い人の一生、懸命に生きなければと思います。少なくとも、「現代は密かな男の勇気というものが消え失せた時代」(曽野綾子)といわれないように。 残念ながら周囲に、そして自分に「笑って話せる日が来るよ」と言える心情ではないのが、“悔しい”の一言です。 今週の花材は、花器の色と花が一体となって、秋の静せい謐ひつを表現しています。昂たかぶる気持ちを鎮めようとしてくれているかのようです。今週の花vol.149 雨 音2011年11月18日■グラジオラス(富士の雪)アヤメ科/球根植物/原産:南アフリカ/《名前の由来》葉の形に由来し、ラテン語で剣を意味するgladiusから/花色も豊富で園芸品種は1000種を超える。草丈は1m程で、漏斗状の花が花茎いっぱいに次々と開花する。■アナスタシア キク科/多年草/花びらが花火のように広がる大きな菊。通常の菊と異なり、細く繊細な花びらが特徴。供花よりも祝花としての利用が多い品種。今回はライム、ブロンズ、黄色の3色を使用。理事長室からの花だより

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