* 平成23年度入学式 学長式辞(5月6日挙行)
(2011.05.09)


3月11日に発生した東日本大震災は、我が国に歴史上例をみない被害をもたらしました。本県での原子力発電所の事故は、現代科学が直面した初めての危機です。
このような混沌とした状況の下で、人生の節目である入学式を挙行することは今までになかったことですし、今後もないでしょう。それだけに、今年の入学式は、本学の歴史に長く刻まれるに違いありません。何故なら、本学は、今、歴史という後世の評価と対峙(たいじ)することを求められているからです。
今というこの時期、我々に求められているのは、国民や県民の健康管理に政府の支援の下、オールジャパンで全力を尽くすことです。本学は、その最前線で汗を流さなければなりません。そして、次の世代の為に、全世界に向けて、全てを正確に記録し、新たな指針作りの資料を整えることです。

本日、福島県立医科大学大学院及び大学に入学を許可されました皆さん、誠におめでとうございます。
入学するかどうか随分悩まれたであろうことは想像に難(かた)くありません。それだけに、教職員一同、皆さんの入学を心から歓迎いたします。
先人の叡智は、困難に直面した時、それを「悪いこと」とは嘆かず、「自らを鍛える良い機会」と捉えて、その困難と闘うことの大切さを説いています。皆さんは、今、先人の箴言(しんげん)に従ってここに居るのだと、私は確信しています。
私たち教職員は、君たちが本学で学ぶという決意が間違っていなかったことを明らかにするために、あらゆる面で応援することを約束します。

また、ここに至った道のりを温かく見守り、励まし、導いてこられた保護者の皆様や先生方には、お子様や教え子の晴れ姿を前に、このような緊迫した状況の下だけに、これまでの歩みを振り返り、万感胸に迫るものがあるかとお察し致します。

入学式とは「未来への覚悟」を表明する場です。
今日、新たな一歩を踏み出した皆さん、本学での出会いを大切にしてください。人生は出会いに尽きます。何故なら、“人生の扉は他人が開く”からです。どの出会いが自分にとって大切かはその時は分かりません。だからこそ、一人一人の出会いに真摯に向き合うことが大切です。
出会いは自分を成長させ、そして人生を豊かにしてくれます。「出会い」に運命的な出会いなどというものはなく、出会った後に、お互いが相手に信頼と敬意を持って接する長い日々の営みの積み重ねが絆をつくり、その結果が「掛け替えのない友や恩師」を作っていくのです。

皆さんが医療人として向き合う相手は、理不尽にも突然の病に苦悩している人々です。不条理と矛盾に満ちた医療や看護の現場において、プロとしての医療人に求められるのは、共感の提示と病める人々を包容できる全人的な豊かさです。
医療人として求められるプロフェッショナリズムとは、まず、目的に対する単純強固な意志です。
第二に、低い水準における満足感の拒否です。
第三に、栄光の影の骨身を削る努力です。
最後に、自らの努力無くして人生の果実を期待しないことです。
このプロの精神を、これからの日々、胸に刻んで学生生活を送って下さい。今日からは、君たちは「何になったか」ではなく「何をしたか」が問われるのです。

学びの日々の中で、君たちはこれから様々な挫折を味わう筈です。でも、恐れたり怯(ひる)むことはありません。人間は、皆失敗しながら生きているのです。そのうえ、もっと酷い失敗も起こります。そして、幾ばくかの苦悩や喪失を日々繰り返しているのです。
でも、皆自分なりのベストを尽くして生きているというのが世の中です。大切なことは、日々遭遇する、目の前の一つ一つに逃げずに愚直に向き合うことです。日々のひた向きな生き方の積み重ねが、その後の自分を形づくっていくのです。
「挫折の数だけ勁(つよ)く、そして優しくなれる」ことを信じて研鑽に励んで下さい。

人間というものは、人生が配ってくれたカードでやっていくもので、配られたカードが悪いと愚痴をこぼしたりするものではありません。人生こうしようああしようと計画を立てて、自分の人生を考えても、その通りになることはありません。殆ど違った方向へ行ってしまいます。
でも、大切なことは、その場その場で自分のベストを尽くすことです。 私の医師としての長い経験から、世の中には変わるものも多いが、変わらないものも少なくない、というのが実感です。その中から皆さんに三つの言葉を贈ります。
一つは、「愚直なる継続」です。
これを実行するには鉄のような意志が必要です。何でもよいですから、毎日継続できるものを決めて取り組んでみてください。毎日五分間、本を開くことでも結構です。大切なのは、本を読み理解することではなく、開くだけでよいのです。その積み重ねを三年間続けると、もはや誰も到達できない境地に達することが出来ます。プロとしての医療人にとっては、愚直なる継続が最大の武器であり、大成する王道です。

もう一つは「修業とは矛盾に耐えること」です。
それに耐えられなければ医療のプロとして一人前にはなれません。「修業」の場では多少の矛盾や不条理に耐えていくことが求められます。修業や人生とは、「さまざまな厄介ごとの中を、折り合いをつけて生き抜いていく場」という認識と覚悟を持つことです。先輩や教師は、君たちがひたむきに努力している姿をみると、君たちを愛しく思い、教え育もうという熱意を持てるのです。双方の熱意がぶつかり合って初めて、「人生の扉は他人が開く」という格言が皆さんの前に表れるのです。

最後に、「誇り」です。
誇りは、人生の道々で出会うであろう様々な苦難に立ち向かうとき、自分を支えてくれる最大、そして唯一の拠り所になります。頭を下げないことが「誇り」ではなく、頭を下げた後に残るものが真の「誇り」です。誇りは、人生の道々で出会うであろう様々な苦難に立ち向かうとき、自分を支えてくれる最大の心の拠り所になります。

君たちがこれから身につける白衣は、着る者に小さな覚悟を強います。白衣は君たちに誇りを持つこと、そして厳しさに耐えることを求めています。

福島県立医科大学は、母体となった福島県立女子医学専門学校が創立されて以来、六十有余年の歴史があります。そして今、原発事故に対して国民や県民の健康を守っていくという新たな歴史的使命を負うことになりました。
君たちの、そして福島県立医科大学の歴史に新たなページを書き足すのは、今ここにいる君たち自身なのです。
我が国における未曾有な惨禍を受け止めて、君たちがどのようなページを書き足すのか、私たちは今から期待しております。無限の可能性を秘めた君たちの、今後の成長を期待しています。

平成二十三年五月六日
福島県立医科大学 学長 菊地 臣一






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