FUKUSHIMAいのちの最前線
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第1章FUKUSHIMA いのちの最前線73戦場と化した福島医大て作物の収穫は行われませんでしたし、放射性物質検査も行われるようになりました。放射性物質が検出された米は市場に出回りませんでした。―日本で暮らしていて、食べたくなる母国アメリカの食べ物はありますか。ノレット先生◦今日では、アメリカの食べ物は良くも悪くもどこでも手に入ります。私のルーツは北欧なのですが、日本で生活していて食べたくなるのは北欧料理、特にルーテフィスクですね。伝統的な東北の食べ物は、塩で保存されているものが多いですが、ルーテフィスクは灰汁(伝統的な作り方ではカバノキの灰)で保存します。現代では塩分摂取による高血圧が問題となっていますが、もしかしたら私も含めコーカサス系の民族は日本人よりも塩分に対する感受性が高いのかもしれません。アメリカの専門家は、一日当たりのナトリウム摂取量を1.5グラム未満に抑えるよう勧告していますが、日本では6グラムまで許容されています。そして平均的な日本人の食事には一日当たり10グラム以上含まれています。2010年の終わり頃、本学の循環器専門の先生に自分の高血圧のことで相談したところ、彼は塩分摂取にもっと注意するようにと言いました。それから私の血圧は正常に戻りました。私にとっては、セシウムよりもナトリウムの方がより大きなリスクです。―オーストラリアでは、後任候補の医師が先生の職を求めたために去らざるを得なかったとのことですが、福島ではどうなのでしょうか。ノレット先生◦3.11の前と後とで、合計2回「教授ビザ」を更新する必要がありました。どちらの時も、本学の菊地理事長は無制限・無期限で私を雇用するという旨の書類に署名をしてくださいました。―今後についてお聞かせください。また、日本の皆さんに対してなにかメッセージがあればお願いいたします。ノレット先生◦はい。定期的に更新する必要のあるビザを持っていること、私はこれを日本に住む権利だとは思っていません。これは私にとっては日本に住むことが出来るという名誉なのです。皆さんにも、この島国で暮らすということがどんなにすばらしいことか、振り返ってみてほしいと思います。2011年の終わり頃、東京で教授と講座主任の職を考えてみないかとのお誘いを受けました。確かに、東京はいいところだと思います。福島から新幹線で1時間半ほどで行けますし。東京に行くのは好きです。しかし、もっと好きなのは福島に帰ってくることです。ここが私の家なのですから。

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