FUKUSHIMAいのちの最前線
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第5章次世代へ伝えるFUKUSHIMA いのちの最前線577 最後に、その歴史的使命を背負った私たちが今後数十年にわたって、県民あるいは人類のために務め果たしてゆく、そのミッションを再確認しておきたいと思います。山下 広島・長崎を考えるとよく分かると思うのですが、時代と共にどんな事象や記憶も風化するという問題があります。しかし、先人の熱き精神は風化させてはなりません。今経験をしているこの気持ち、思いを10年、20年と、どうやって引き継いでいくか、どのような具体的なノウハウにより世代を超えて、福島の精神を継承していくかを考えることは、非常に大事なことであり、意義があることだと思います。 今日は精神論の話をここまで随分しましたが、実践するためには技術論が必要となります。その技術論としては、教育カリキュラム、またカリキュラムだけでは生きた教育はできませんので、人間像、神谷先生がお話されたような人間としての深み、人格の向上を、どのように教育で担保できるかということになります。 長崎大学医学部は今年、創立155年になるのですが、オランダの海軍軍医ポンペが27歳で長崎に来て、何もないところで医学全般をゼロから一人で、松本良順と12人の弟子たちにオランダ語で教えたところからスタートしました。そのポンペが伝えたこととして、「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものである。もしそれを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。」とあります。これが西洋医学伝承の建学の精神であり、医療職とは職業というだけではなく、常に奉仕の精神が不可欠なんです。 私は、そういう精神がこの福島で新しく根づくためのノウハウづくりが、これからの課題だと思います。自分というものを捨てないと次への継承はできない。蒔かれた種は育つにつれ自らは消えて無くなりますが、花や実をたわわに咲かせます。そういう人材の育成をここで継続させるために、種を植えていくこと、そして成長に必要な水や栄養を我々が注いでいくことが教育の根幹であり、我々の責任でもあり一番重要だと思います。神谷 継続するということ、まさしくそうですね。広島・長崎も「語り継ぐ」ということがずっと行われてきました。それは、ややもすれば風化していくわけですが、そのコアにある被爆者の思いというものは今も語り継がれています。 そういう意味で今回の震災に関しても、人々が被った被害あるいは巨大な不幸を、風化させてはなりません。その被害から復興するために命を賭して努力した人々の想いを忘れてはいけません。語り継いでいく必要があります。そういう中で本学は、県民の健康を長年にわたって守るという歴史的使命を担った組織であり、現にその役割を果たしてきているわけです。それを地道に、誠実に継続してゆくこと、そのことが福島県立医科大学の大いなる精神になると思います。菊地 昨年の3月11日を境に福島県立医科大学は、国民や県民の健康を守り、その中で得た知見を世界に発信していくという新たな歴史的使命を負いました。それが我々の人生に配られたカードであるならば、それをもとにその場その場でベストを尽くすしかありません。そしてそのことこそが、本学と福島県の復興につながる道でもあります。 後年、「あの福島が」と国内外から評されるよう、すなわち「福島の悲劇を奇跡に」変えるために、教職員、学生が一丸となってこの使命を果たしていかなければなりませんね。歴史的使命と世界的責任を担いつつ

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