FUKUSHIMAいのちの最前線
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第5章次世代へ伝えるFUKUSHIMA いのちの最前線575 また、昨年の10月には「放射線健康管理学講座」、11月には「放射線生命科学講座」、この二つの講座が長崎大・広島大からそれぞれの教授に来ていただき新しく立ち上がりました。これが一つのパワーになると思います。 さらに今年6月には「放射線災害医療センター」が附属病院に新設されましたが、これも今後被ばく医療のメッカに成長すると思います。 これら全てに関しての根幹となるのは、理事長と一緒に看板を掲げました「放射線医学県民健康管理センター」です。これは県民の健康を見守るという長きにわたる事業であり、単なる調査・研究が目的ではなく、心身のケアヘと拡がりますので、このセンターにはそれなりの人材と組織体制が必要になります。 そのような人材を今すぐ育成するというのは極めて困難です。オールジャパンで、あるいは世界から人材を受け入れて教育に当たってもらう、あるいは事業を推進する、ということが必要です。そのような組織・体制作りを目指して、今、理事長のもとで立ち上がっている福島県立医科大学の復興ビジョン、これがすなわち「夢の架け橋」、そして長きにわたる医療人と社会の繋がりの大きなシンボルになると期待しています。菊地 ここまでのお話からすると現在在学している学生、あるいは今後、本学を目指して入ってくる学生に大きな期待がかかってきますね。山下 病院、あるいは医療人というのは、基本的に内向きですよね。ある意味で価値観もそうですし、医師の常識は世間の非常識などとも言われるように、なかなか世間との付き合いができていないところがある。今回、ある意味ではこれらの閉鎖性や硬直化の弊害が、震災を契機に露呈した部分もあるのかと思うのです。 そういう中で、この福島県立医科大学に入ってくる方々は、最初からこの原発事故の問題も含めて社会に目を開いて入ってくる、あるいは覚悟して入ってくる。そういう意味では私は素晴らしい選択をしたなあと、選択してくれたことにまず感謝をしたいと思います。その上で学生たちに望むことは、これは医療人たる者、あるいは人間たる者という話になりますが、そして理事長が入学式などで常々言われている言葉をそのままお借りしますが、「配られたカードに文句は言うな」、そして「人生の扉は他人が開く」、さらに「愚直なる継続」。この3つが本学の基本的な行動規範になっているのではないかなと思うのです。 このような中で、一言付け加えるとすれば「本気でものごとに取り組む」。既存の枠組みの中での勉強・学問ではなくて、現場主義の課題解決型ですね。目の前に問題や課題はたくさんあります。そのことに医療人としてどう向き合うべきか、そこで「チャレンジ」してもらいたいと思っています。そのチャレンジの最大の手本が福島県にはいます。野口英世です。彼について私が凄いと思ったのは、あの時代における医療分野での業績はもちろんですが、「Honesty is the best policy」、誠実、まさに学長が話されている愚直さに通じる、その愚直さが一番の生き方だと、そして「忍耐こそすべてだ」と言っています。 私自身も福島に来てそれを学んでいるところですが、まさにここで学ぶ若者には、会津の歴史と有名無名の幾多の先輩の背中を見て育っていただきたい、そう伝えたいですね。神谷 山下先生のお話のとおりですね。今回の事故を経験した福島県立医科大学は、他の医科大学とはやはり大きく違うと思いますね。それは、深刻な問題──病気というのはもちろん全て深刻なんですが、もっと社会的に大きな影響を与える深刻な問題と直接的に本学は向き合っており、それをなんとか解決しようと努力している。そういう状況にある大学に入学して、その問題自体や解決に向けての過程に直接あるいは間接的に触れることができることは、学生にとっては本当に重要な経験だと思うのです。そうした中で、自分が医療人として何をしなければならないのか、住民の不安や健康問題に本当に応えるためには、何を学ばないといけないのかということが、リアリティを持って迫ってくると思うのです。そうすると医療職を目指す学生の能動性とか、主体性が自然に育まれることになると思います。また、先ほど話のありました問題解決型のテーマ設定とか対応が否応なく個々の学生にもかかってきますので、そういう中で切磋琢磨して勉学に励んでゆけば、医療人として最も重要な「病む人に寄り添う」魂を学ぶことができると思います。 もう一つ重要なことは、今直面している問題は、かえりみて学び、新たな眼差しで切り拓く歴史的使命と世界的責任を担いつつ

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