FUKUSHIMAいのちの最前線
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572維持運営を国の責任で管理する法制化を求めるべきではありませんか。菊地 県民健康管理調査は国の責任で行う法律が出ていますし、センター構想については国会で審議が遅れている原子力規制庁の設立に含まれていますので、何とか早期に法案成立をして頂きたいですね。ハードを造るのは簡単ですが、維持運営するには30年、50年と継続する組織にしないとダメです。まずは県民が納得する形で健康管理調査が円滑に進むことが大切で、なおかつ国が最後まで関与し続ける。 人類の財産となる県民健康管理調査の回収率が20%台と低迷しています。原発事故地から離れた遠い地域ほど距離に比例するように回答率が低く、会津の数字が一番少ない。ところが36万人の子供たちを対象にした甲状腺検査は、80%以上が受診しています。検査や調査の体制については、詰めが甘いといった批判もありますが、現場は不眠不休で献身的に働いているのですよ。ただ、いまの体制では不十分で、もっと予算、人を増やさないといけないですね。──その意味では今年の国公立大学の医学部定員が全国で68人増え、そのうちの15人が福島医大に充てられた。平成20年から医療人育成支援センターを設立し、今回の震災を受けて災害医療や放射線医療の地としての福島県における医療人育成も大きなテーマです。菊地 まず重要なのは、子供をずっと見守る制度設計と体制ですよね。もう一つは、低線量の長期被曝について人体に対する影響があるのかどうかの根拠を示していくことです。これについては過去にデータがないので、何より科学の世界で一番難しいのは「影響がない」という場合の、まさにこの「ない」を証明することなのです。だから、これは長期でやるしかない。子供の見守りと低線量の長期被曝の管理が大きな柱でしょうね。それと県民に対する安心の提供です。ここまで不信感が極まると科学的合理性、経済的合理性を超えたところでしか、安全・安心は得られないのではないでしょうか。そして、それは24時間オープンの全科救急で県内の拠点病院と協力すれば、県内で安心して暮らすことが出来るはずです。 双葉郡の医療機能が停止して、相馬やいわきの医療にシワ寄せが来ています。医大では医師派遣講座を作り、全国から志ある医師が来ています。その方々には大学の教員という身分保証を与えて、大学から現在5人が派遣されています。ただ、シワ寄せの影響で介護の方が崩壊しています。介護は地域枠ですから、これは早急に見直さないとどうにもならない。医療も介護も復旧というか、元のままに戻すのはもう無理です。超高齢化社会に対応するためにも、原発事故で一変した地域の人口の偏在に応じて我々が出ていく。 つまり、病院があるから来てくださいではなくて、診療所などに我々が出向いて必要ならば拠点病院に連れていく。そうしないと十分な、納得頂ける医療の提供は出来ないと思います。生活の基盤が崩壊していますから介護と同時に商店も出前したりして、住民が居ながらにして生活出来る基盤を整備し、そこに医療と介護が介入していけば希望を持って未来に向けた第一歩が始められる。高齢者に医療や介護、デイサービスに来てもらうのではなく、人の流れ、ベクトルを逆にするのは大事な考え方ではないでしょうか。�(聞き手・板倉 崇)医療・介護のベクトルを県民の生活基盤へ

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